みなし贈与とは|親子間の不動産売買で贈与税が課される仕組みと対策
公認会計士・税理士の筧です。
親子間や家族間で不動産を「相場より安く」売買すると、売買契約であっても時価との差額に贈与税がかかることがあります。これが「みなし贈与」です。実務では時価の8割前後が一つの目安とされていますが、この基準に法的根拠はなく、税務署が後から時価を高く再評価して課税してくるリスクは常に残ります。
まず、どのケースが危ないのか一覧で確認してから、対策まで解説します。
みなし贈与になるケース 早見表
| 取引の形 | 売買価格の水準 | 課税関係 |
|---|---|---|
| 個人間(親子・親族間) | 時価と同等〜時価の90%程度(目安) | 原則リスク低い(ただし絶対額の差が大きい場合は要注意) |
| 個人間(親子・親族間) | 時価の80%前後(目安) | 通説上の目安ライン。税務署の時価評価次第で覆るリスクあり |
| 個人間(親子・親族間) | 時価より著しく低い | 差額に贈与税(相続税法7条)。個人が受け取る側 |
| 個人→法人(オーナー会社等) | 時価より著しく低い | 法人側:受贈益として法人税課税/個人側:時価の1/2未満なら所得税法59条によるみなし譲渡課税(時価で売ったとみなして所得税) |
| 法人→個人 | 時価より著しく低い | 個人側:受贈益的な扱い(給与・役員報酬等の所得区分で課税されるケースが多い) |
個人間の低額譲渡は「贈与税」、法人が絡むと「法人税」と「所得税」が同時に動く三方向課税になる点が最大の注意点です。上記の割合(90%・80%など)はあくまで実務上の目安であり、法的な安全基準ではない点にご注意ください。
よくある質問
Q1. 売買契約書を作れば贈与税はかからないのでは?
かかりません、とは言えません。契約の形式が売買であっても、対価が時価に対して著しく低い場合は、その差額部分が「贈与を受けたもの」とみなされます(相続税法7条)。売買という形式は、みなし贈与を否定する材料にはなりません。
Q2. 時価の8割で売れば安全だと聞きました。本当ですか?
「8割」はあくまで実務上の通説的な目安であり、法律や国税庁の公式なルールとして定められた基準ではありません。税務署が独自に時価を高く再評価すれば、8割でも9割でも差額が大きければ課税対象になり得ます。特に差額の絶対額が大きい取引(数百万円〜数千万円単位)は、割合が高くても指摘されるリスクがあります。
Q3. 贈与税の基礎控除(一般に110万円とされています)以内なら問題ないですよね?
みなし贈与として認定された差額は、その年に受けた他の贈与と合算して課税されます。「不動産の差額だけなら基礎控除以内」と思っていても、同年中に他の贈与があれば合算され、想定外の課税につながることがあります。基礎控除の金額自体も税制改正により変動しうるため、最新の制度は必ず確認してください。
なぜ「売買」でも贈与税がかかるのか(相続税法7条の考え方)
相続税法7条は、著しく低い価額で財産を譲り受けた場合、時価と譲渡価額との差額を「贈与により取得したものとみなす」と定めています。売買契約が有効に成立していても、経済的な実質として「タダで財産を移した部分がある」と評価される、という考え方です。
ここで実務上いちばん厄介なのが、「著しく低い価額」の判定基準が明文化されていないことです。相続・事業承継の相談の場では必ず「時価の何%までなら大丈夫か」という質問が出ますが、正直なところ、明確な数値基準は存在しません。80%前後という目安が広く使われているのは、あくまで過去の裁決例や実務上の経験則の蓄積によるもので、法律上の安全圏を保証するものではありません。
つまり「8割で売ったから安心」という発想自体が、税務調査で否認されるリスクの入り口になります。
危険な典型例:相続対策で親→子へ不動産を安く売る
相続対策として、親が所有する不動産を子に売却するケースは非常に多く見られます。相続税の課税対象から不動産を外しつつ、資金は親に残す、という発想自体は自然です。
ただし、時価5,000万円の不動産を1,000万円で売却するようなケースでは、差額の4,000万円部分がみなし贈与とされ、贈与税が1,500万円を超えるケースもあります(税額は個々の事情・贈与税額計算の前提により変動するため、必ず個別に計算が必要です)。
「親子だから安く売っても問題ない」「相場は分からないから適当に決めた」という進め方が、後から数千万円単位の税負担を生む典型的なパターンです。事業承継の場面で、オーナーが個人所有の不動産を後継者や資産管理会社に安く譲る際にも、同じ構造のリスクが潜んでいます。
法人が絡むと「三方向課税」になる
個人間の取引であれば贈与税だけを考えればよいのですが、法人が売買の一方に入ると話が変わります。
- 個人がオーナー会社に不動産を著しく低い価格で売却した場合
個人側:時価の1/2未満での譲渡なら、所得税法59条により「時価で売ったとみなして」譲渡所得税が課税される(みなし譲渡)
法人側:時価より安く買った分は「受贈益」として法人税の課税対象になる
つまり、個人には贈与税ではなく所得税、法人には法人税、というかたちで、2つの税目が同時に発生します。法人成りの直後や、個人所有不動産を会社に移す場面でこの整理を誤ると、想定していなかった法人税・所得税の負担が二重に発生し、資金繰りの計画が崩れることがあります。想定外の税負担は納税資金の確保にも直結するため、融資を受けている場合は銀行への説明が後手に回るリスクも出てきます。
税理士に相談せず「とりあえず安く売って会社に移そう」と進めてしまう案件で、後からこの三方向課税に気づいて対応に苦慮する、というのは面談でも度々出てくる相談です。
対策の3点セット:税務署に否認されないための実務
みなし贈与のリスクを完全にゼロにすることはできませんが、税務調査で「著しく低い価額ではなかった」と主張できる材料を整えておくことは可能です。
1. 独立した不動産鑑定評価書を取得する
固定資産税評価額や路線価だけで価格を決めず、不動産鑑定士による鑑定評価書を取得します。第三者の専門家が算定した価格であることが、税務署への説明材料として最も強力です。
2. 売買価格を鑑定評価額の90%以上に設定する(目安)
8割前後という通説を鵜呑みにせず、より安全域を取って鑑定評価額の90%以上を目安にします。この90%という数値も法的な安全基準ではなく実務上の目安である点は留意してください。差額の絶対額が大きい不動産(数千万円規模)の場合は、割合以上に「差額そのものの大きさ」が問題視されやすいため、可能な限り時価に近づける判断が重要です。
3. 取引の合理的理由を議事録・覚書として文書化する
なぜその価格で取引したのか、なぜ親子間・関係者間で不動産を移す必要があったのか、という経緯を議事録や覚書として残します。取引時点での意思決定の記録があることで、後から「恣意的な価格操作だった」と評価されるリスクを下げられます。
この3点は、いずれも「取引前」に準備するものです。売買契約を結んでしまった後で鑑定評価書を取っても、後付けの資料として説得力が下がります。相続対策や事業承継、法人成りで不動産を動かす計画がある場合は、契約前の段階で顧問税理士・不動産鑑定士にご相談いただくことをお勧めします。
まとめ:まず一つだけやるとしたら
家族間・関係者間で不動産を売買する予定があるなら、契約前に不動産鑑定評価書を取得することを検討してください。価格の根拠を先に固めておくことが、後の贈与税・法人税・所得税の想定外の課税を防ぐための有効な一手になります。個別の判定や税額計算は前提条件によって大きく変わるため、実行前に顧問税理士・当法人へご相談ください。
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