事業承継の相談先はどこがいい?税理士・M&A仲介・銀行の違いと選び方
公認会計士・税理士の筧です。
結論から言うと、事業承継の相談は「最初の窓口」を間違えると1〜2年遠回りします。税理士法人は自社株評価や税負担、資金繰りまで一気通貫で伴走できますが、M&Aの相手探しは仲介会社の領域ですし、公的な引継ぎ支援センターは無料で使える分できることが限られます。まず税理士法人に相談し、選択肢を整理してから専門機関に振り分けるのが、遠回りしない順番です。
よくある質問
Q1. 事業承継、まず誰に相談すればいいですか?
顧問税理士がいるなら、まずそこです。自社株の評価額や税負担の見通しがないまま親族内承継・M&A・廃業のどれが得かは判断できません。数字が出て初めて「M&A仲介に相談すべきか」「引継ぎ支援センターで十分か」が決まります。
Q2. 銀行や商工会議所に相談してもいいですか?
入口の情報収集としては有効です。ただし銀行は自行の融資先紹介やグループのM&A仲介につながりやすい面があり、商工会議所は無料相談やマッチング支援が中心で、株価評価や税制活用といった実務までは踏み込めません。最終判断の材料にする数字は、税理士に別途出してもらう前提で使うのが安全です。
Q3. 税理士法人とM&A仲介、両方に相談すべきですか?
M&Aを本気で検討するなら両方必要です。税理士法人は譲渡後の税負担・手取り額・組織再編の要否を試算し、M&A仲介は相手探しと価格交渉を担います。役割が違うので、片方だけで完結させようとすると情報も価格も偏ります。
なぜ相談先選びで迷うのか
事業承継の相談先には、税理士法人、M&A仲介会社、銀行、商工会議所、事業承継・引継ぎ支援センターと複数あります。それぞれ得意分野と立場が違うのに、経営者の側は「事業承継の相談窓口」としてひとくくりに捉えてしまいがちです。
毎月の面談でも「銀行に相談したらM&Aを勧められたが、これで本当にいいのか」「商工会議所のセミナーに行ったが結局何も進まなかった」という相談をよく受けます。原因は、相談先の立場によって出てくる答えが違うことを知らずに聞きに行ってしまうことです。
相談先ごとの役割と限界
- 税理士法人:自社株評価、株価対策、事業承継税制の活用、納税資金の準備、組織再編、相続まで一気通貫で扱えます。ただしM&Aの相手探し・交渉は専門外の事務所もあり、提携先の仲介会社と組んで進めるケースが多いです。
- M&A仲介会社:買い手・売り手のマッチングと価格交渉が本業です。成功報酬型が多く、成約させること自体にインセンティブが働く構造なので、複数社から試算を取って比較する姿勢が欠かせません。
- 銀行:融資先とのつながりや情報網が強みですが、自行グループのM&A仲介や取引先への紹介につながりやすい面があります。セカンドオピニオンとして使うのは有効です。
- 商工会議所:小規模事業者向けの入口相談・専門家紹介・セミナーが中心です。無料で相談できる反面、株価評価や税務の実務対応までは担いません。
- 事業承継・引継ぎ支援センター:国の公的機関で、後継者不在企業と譲受希望者のマッチング支援などを無料または低コストで行います(支援内容・利用条件は最新の中小企業庁公表情報で要確認)。ただし税務・株価対策までは踏み込まないため、税理士との併用が前提になります。
どこか一つで完結する制度ではなく、税理士法人を軸に、必要に応じてM&A仲介や公的機関を組み合わせるのが実務上の動き方です。
後継者不在の場合の判断軸
後継者がいない、あるいは決まっていない場合の選択肢は主に4つです。
- 親族内承継:自社株をほぼ現金化せずに引き継げますが、後継者本人の意向確認が最優先です。多くの社長が「比較せず」親族内承継を選び、期限直前に「子が継ぎたくない」と分かるケースが少なくありません。
- 従業員承継:退職金や一部現金化はできますが、後継者となる従業員が個人保証や自社株の買取資金を出せないことが多く、資金調達の設計が必須です。
- 第三者へのM&A:譲渡代金として現金化でき、個人保証も原則買手企業に切り替わります。交渉期間は半年〜2年が目安で、業績が安定している時期に始めるほど価格交渉で有利です。
- 廃業:企業価値・雇用・取引先関係がほぼゼロ評価になるうえ、原状回復費や個人保証付き借入の一括返済請求など、想定以上のコストが発生します。後継者不在でも、廃業を決める前にM&Aの可能性を検討する価値はあります。
どれが正解ということはなく、何を優先するかで決まります。だからこそ、決め打ちせずに複数の選択肢を同時に試算してから選ぶことが重要です。
相談すべきタイミング
事業承継の相談は「決めてから」ではなく「決める前」に動くのが鉄則です。理由は2つあります。
1つは税制の期限です。自社株の相続・贈与にかかる税を原則100%猶予できるとされる事業承継税制(特例措置)には、特例承継計画の提出期限や、対象となる相続・贈与の期限が定められています(具体的な期限・要件は最新の税制改正大綱・国税庁情報で要確認)。与党の税制改正大綱では「今後延長しない」とされており、実質的に最後の活用機会になる可能性があります。使うかどうかは別としても、期限を知らずに親族内承継を検討するのはリスクです。
もう1つは株価のタイミングです。自社株の評価額は利益水準で変動するため、評価が下がっている時期や、退職金支給によって評価を引き下げられる余地がある時期を狙って動く方が、税負担を抑えられる可能性があります。早く相談するほど選択肢が広がります。
M&Aを選ぶ場合も、業績が安定している時期に交渉を始めるのが原則です。業績悪化後や引退直前に動き出すと、価格交渉で不利になります。
税理士法人に相談するメリット
税理士法人に最初に相談する最大の利点は、税務・資金繰り・銀行対応・相続までを一つの窓口で見通せることです。
- 自社株評価と株価対策:現状の評価額を出し、退職金支給などで評価を下げる余地があるか検討できます。
- 税負担と納税資金:事業承継税制を使う場合と使わない場合、M&Aで譲渡益課税(分離課税)になる場合とで、手取り額と納税資金の準備方法が変わります(適用条件・税率は最新税制で要確認)。
- 組織再編:持株会社化や事業部門の切り分けなど、承継前に組織構造を整理する必要が出てくる場合があります。
- 相続まで見据えた設計:自社株以外の相続財産とのバランス、他の相続人との公平性まで含めて設計しないと、承継後に相続トラブルに発展することがあります。
M&Aを選ぶ場合も、税理士法人が試算した手取り額をもとに仲介会社の提示額を検証できるため、相場観のないまま交渉に入るリスクを減らせます。
まとめ:まず一つだけやるとしたら
「親族内承継にする」「M&Aにする」と決め打ちする前に、顧問税理士に自社株評価と税負担の試算を出してもらってください。数時間の打ち合わせで、親族内・従業員・M&Aの3つを同じ土俵で比較でき、そこから初めてM&A仲介や公的機関のどれに相談すべきかが見えてきます。個別の判断は、顧問税理士や当法人にご相談ください。
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税理士法人グランサーズ所属の公認会計士・税理士、BackofficeForce株式会社 代表取締役CEO。中小企業オーナーの税務・資金繰り・銀行対応から経営判断までを一体で支援。YouTube「社長の資産防衛チャンネル」で情報発信を行う。
税理士法人グランサーズ所属の公認会計士・税理士、BackofficeForce株式会社 代表取締役CEO。数字の裏にある経営判断を重視し、中小企業オーナーの税務・資金繰り・銀行対応を支援。YouTube「社長の資産防衛チャンネル」で、経営者に向けて税務とお金の知識を発信しています。







