事業承継税制とは?使うべき会社・使うと危ない会社の見分け方
公認会計士・税理士の筧です。
事業承継税制は、非上場会社の自社株式にかかる相続税・贈与税を猶予する制度です。ただし「免除」ではなく「猶予」であり、将来M&Aで会社を売却したくなった時に猶予税額を一括で払わされるリスクがあります。後継者が決まっていて、長期間その会社を経営し続ける前提がある会社にしか、基本的にはお勧めしていません。
よくある質問
Q1. 事業承継税制を使うと、自社株の相続税はゼロになりますか?
特例措置を使えば、対象株式にかかる相続税・贈与税は理論上ほぼゼロにできます(適用要件・猶予割合は制度区分ごとに異なるため最新情報での確認が必要です)。ただしこれは「猶予」であって「免除」ではありません。要件を満たし続けられなくなった時点で、猶予されていた税額に利子税を付けて一括納付することになります。
Q2. 猶予が打ち切られるのはどんな時ですか?
代表的なのは、後継者が代表を退任した場合、会社を解散した場合、そして株式をM&Aで第三者に売却した場合です。実際の適用条件や期間要件は個別の事案によって異なるため、顧問税理士に確認しながら進める必要があります。特に「将来会社を売るかもしれない」というオーナーには、この制度は逆にリスクになり得ます。
Q3. 手続きが大変と聞きますが、実際どのくらい負担がありますか?
認定支援機関(税理士等)の関与のもと、特例承継計画の提出、都道府県知事の認定申請、その後も一定期間ごとの届出が必要です。一度適用したら、次の承継か猶予打ち切り事由が発生するまで、毎年の管理業務が続くとイメージしてください。
なぜこの制度が「使うべき会社」を選ぶのか
事業承継税制の相談は、顧問先のオーナー社長との面談で毎年のように話題に上がります。特に自社株の評価額が高く、相続税の試算を見て顔色を変える社長は少なくありません。
この制度が生まれた背景は単純です。優良な非上場企業ほど自社株の評価額が高くなり、後継者が相続税・贈与税を払うために自社株を売却したり、会社から資金を借りたりせざるを得なくなる。結果として、経営の安定性が損なわれる。それを防ぐために「猶予」という形で税負担を先送りする仕組みが作られました。
ただし、この制度は「税金を減らす」ためのものではなく「税金の支払いタイミングを、経営が安定するまで延ばす」ためのものだ、という理解が前提になります。ここを取り違えると、後で痛い目を見ます。
使うべきケースの見分け方
現場で見てきた実感として、事業承継税制が向いているのは次のような会社です。
- 後継者(子や親族、あるいは長年勤めた役員)がすでに決まっており、経営を引き継ぐ意思が固い
- 自社株の評価額が高く、後継者個人の資力では相続税・贈与税を払いきれない
- 会社をM&Aで売却する予定がなく、少なくとも10年、20年単位で同族経営を続ける前提がある
- 資産管理会社的な性格が薄く、本業で事業を継続している(資産保有型会社・資産運用型会社に該当すると適用除外になる規定があるため確認が必要です)
逆に、以下のような会社にはあまりお勧めしていません。
- 後継者候補が複数いて、まだ誰に継がせるか固まっていない
- 将来的に同業他社への売却や、ファンドへの譲渡を選択肢として残しておきたい
- 会社の業績が不安定で、雇用要件などの継続要件を満たせるか不透明
特に「将来売るかもしれない」という含みを持っているオーナーには、この制度をあえて使わない、という判断を勧めることもあります。猶予を受けた後に会社を売却すると、猶予税額の一括納付が発生し、売却で得た資金がその納税に消えてしまうケースがあるからです。
税務から資金繰りへの翻訳:猶予打ち切りが起きた時に何が起きるか
事業承継税制の説明で見落とされがちなのが、「猶予が打ち切られた時に、会社の資金繰りにどう跳ね返るか」という視点です。
猶予税額は、後継者個人が負担する相続税・贈与税です。しかし打ち切りが発生すると、猶予されていた税額に加えて、猶予期間中の利子税(年利は市中金利連動で変動します)も合わせて納付する必要があります。後継者個人にそれだけの現金がなければ、会社から役員報酬や配当という形で資金を引き出さざるを得ません。
つまり、事業承継税制の出口設計を誤ると、
1. 猶予打ち切り事由(退任・解散・株式譲渡)が発生
2. 後継者個人に多額の納税義務が生じる
3. 会社から資金を引き出す必要が生じ、会社の資金繰りが悪化する
という連鎖が起きます。個人の税金の話のはずが、最終的には会社のキャッシュフローの問題になる。これが、この制度を「相続税の話」だけで終わらせてはいけない理由です。
銀行対応の視点:金融機関はこの制度をどう見るか
金融機関の融資審査の場面でも、事業承継税制の適用有無は無関係ではありません。猶予を受けている会社は、決算書の注記や税務申告書に猶予税額と利子税相当額が記載されます。金融機関の担当者がこれを見た時に気にするのは、「万が一猶予が打ち切られた場合、この会社・この後継者に納税資金の余力があるか」という点です。
事業承継税制を適用している会社が追加融資を受ける際には、この潜在債務(猶予税額)の存在を金融機関にきちんと説明できるようにしておくことが望ましいです。何も説明しないまま決算書だけ提出すると、担当者が不安に感じ、審査が慎重になることがあります。
経営判断への翻訳:制度ありきで考えない
事業承継税制は、あくまで「相続税・贈与税の負担を軽くするための手段」の一つであり、事業承継そのものの答えではありません。
顧問先との面談では、事業承継税制の適用可否を検討する前に、まず次の順番で考えることを勧めています。
1. 誰に会社を継がせるか(親族内・従業員・第三者M&A)
2. その後継者が、何年単位で経営を続ける前提か
3. 自社株の評価額はどの程度で、相続税・贈与税の見込み額はいくらか
4. 猶予制度を使わずに、生前贈与や種類株式、持株会社化など他の手段で対応できないか
5. 以上を踏まえて、事業承継税制が本当に必要か
この順番を飛ばして「とりあえず特例承継計画だけ出しておく」という進め方をすると、後継者が決まっていないのに計画だけが先行し、結局使わないまま期限を迎えるケースも見かけます。特例承継計画には提出期限があるため慌てて出す会社もありますが(期限は制度改正の経緯があるため最新情報の確認が必要です)、計画提出はあくまで選択肢を残すための手続きであり、使うと決めたわけではないことは理解しておく必要があります。
まとめ:まず一つだけやるとしたら
事業承継税制の検討を始める前に、まず「後継者は誰で、その後継者は何年この会社を経営し続けるつもりか」を、後継者本人と直接すり合わせてください。ここが曖昧なまま制度の話を進めると、猶予を受けた後で身動きが取れなくなります。制度そのものの詳細は、その後で顧問税理士と一緒に詰めれば十分間に合います。
💡 監修:本記事は国税庁出身の税理士・公認会計士が監修しています。
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*公認会計士・税理士 筧智家至 / 税理士法人グランサーズ*







