資金繰りが厳しいとき、社長が自分の個人口座から会社にお金を入れる——これが役員借入金(社長・役員が会社に貸したお金)です。柔軟で強力な資金注入手段ですが、放置すると銀行評価と相続税で思わぬリスクになります。メリットと2大リスク、3つの解消法を整理します。
役員借入金とは。役員貸付金との決定的な違い
役員借入金は「社長 → 会社」へお金を貸すことで、会社から見れば負債です。逆に役員貸付金は「会社 → 社長」で、会社から見れば資産(債権)です。この向きの違いが銀行評価で決定的に効きます。
| 項目 | 役員借入金(社長→会社) | 役員貸付金(会社→社長) |
|---|---|---|
| 会社から見た区分 | 負債 | 資産(債権) |
| 銀行評価 | マイナスに働きにくい(実質自己資本とみなされることも) | 「回収不能の疑い」でマイナス評価されやすい |
| 利息 | 無利息でも原則問題になりにくい | 一定の利息設定が必要(認定利息の論点) |
メリット:無利息で、銀行評価を傷つけず、素早く資金注入できる
- 原則、無利息でよい:会社が社長から借りる形なので、利息を付けなくても税務上の問題になりにくい
- 銀行審査にマイナスとなりにくい:役員借入金は実質的な自己資本とみなされることもあり、役員貸付金のように評価を下げない
- 役員報酬を上げずに資金を入れられる:報酬増による所得税・社会保険料の増加を招かずに、機動的に運転資金を注入できる
リスク1:相続財産になり、相続税がかかる
最大の盲点です。役員借入金は社長から見れば「会社への貸付金債権」という個人資産です。社長が亡くなると、この債権が相続財産として相続税の課税対象になります。会社の資金繰りが苦しく実際には回収できない見込みでも、額面で評価されて課税されることがあり、「戻ってこないお金に相続税だけかかる」事態になりかねません。
リスク2:放置すると銀行に「不健全」と見られることも
長期間・多額の役員借入金を無計画に放置すると、銀行から「役員に依存した資金繰り」「返済の実態が不明」と見られる場合があります。金額と背景を説明できる状態にしておくことが大切です。
3つの解消法
- ①債務免除:社長が会社への債権を放棄する。ただし会社側に債務免除益(益金)が発生し法人税の対象になる。繰越欠損金がある年度に行い相殺するのが定石
- ②役員報酬の減額と相殺:役員報酬の一部を支給せず借入金の返済に充てる。定期同額給与のルール(期首から3ヶ月以内の改定)を守る必要がある
- ③DES(債務の株式化):借入金を資本金に振り替える。株式の時価評価が必要で、時価が債務額を下回ると差額に課税が生じる場合があるため専門家の設計が必須
まとめ
役員借入金は資金繰りの強い味方ですが、放置すると相続財産として課税され、銀行評価にも影響します。「社長個人の相続」まで見据えて、債務免除・役員報酬相殺・DESのどれを、いつ、どの規模で行うかを計画的に設計することが重要です。資金繰り・相続・事業承継を一体で見られる専門家にご相談ください。
中小企業オーナーの税務・資金繰り・銀行対応・事業承継を専門とし、年間100社以上のオーナーと毎月面談。数字の裏にある経営判断を支援。
よくある質問
Q. 役員借入金と役員貸付金は何が違いますか?
役員借入金は「社長→会社」にお金を貸すことで会社の負債、役員貸付金は「会社→社長」で会社の資産(債権)です。銀行評価では、役員借入金は実質自己資本とみなされマイナスになりにくい一方、役員貸付金は回収不能を疑われて評価を下げやすい、という決定的な差があります。
Q. 役員借入金に利息は必要ですか?
会社が社長から借りる役員借入金は、原則として無利息でも税務上の問題になりにくいです。逆に会社が社長へ貸す役員貸付金は、一定の利息(認定利息)の設定が必要になる点が異なります。
Q. 役員借入金を放置するとどんなリスクがありますか?
2つあります。①社長が亡くなると会社への貸付金債権が相続財産となり相続税の対象になる(実際は回収できなくても額面で課税されることがある)、②長期間・多額を無計画に放置すると銀行から資金繰りの健全性を疑われる、という点です。
Q. 役員借入金はどう解消すればよいですか?
主な方法は3つです。①債務免除(会社に債務免除益=法人税が発生するため繰越欠損金と相殺できる年度に行う)、②役員報酬の減額と相殺(定期同額給与のルールを守る)、③DES=債務の株式化(株式の時価評価が必要)。相続・承継まで見据えて計画的に行うべきです。




