非上場株式(自社株)の評価方法と株価引き下げの実務対策
公認会計士・税理士の筧です。
非上場の自社株は、相続税評価の中でも最も高額になりやすく、かつ最も対策の余地が大きい財産です。結論を先に言うと、株価は「利益」「純資産」「会社規模」の3つをどう動かすかで大きく変わります。何もせずに相続を迎えると、想定以上の評価額がついて納税資金が足りない、という事態が実際によく起きます。
よくある質問
Q1. 自社株の評価額はどうやって決まりますか?
オーナー一族など支配権のある株主(同族株主)が持つ株式は、原則として「類似業種比準方式」「純資産価額方式」またはその併用方式で評価します。会社の規模(大会社・中会社・小会社)によって、どちらの方式をどの割合で使うかが決まります(具体的な判定基準は最新の財産評価基本通達で要確認)。少数株主が持つ株式は、実際の支配権がないため、配当額を基準にした簡便な「配当還元方式」で評価することが多く、こちらは通常かなり低い評価額になります。
Q2. 株価はどれくらいの期間で下げられますか?
退職金の支給や不動産取得など、決算に影響を与える対策は、その効果が翌期以降の株価評価に反映されるまで、目安として1〜2期(1〜2年)程度はかかると見ておく必要があります(会社の状況により変動するため要確認)。相続が発生してからでは打てる手がほとんどないため、後継者への贈与や譲渡を検討するタイミングで、逆算して評価額を作り込むのが実務の基本です。
Q3. 退職金で株価を下げるのは本当に有効ですか?
効果は大きいですが、副作用も大きい対策です。退職金の支給によって利益・純資産の両方が圧縮され株価は下がりますが、同時に会社の現金が大きく流出します。役員退職金には税務上「不相当に高額」と判断されない目安があり、かつ支給後の資金繰り・借入金の返済能力・銀行への説明まで含めて検討しないと、株価は下がったが会社の体力も落ちた、という本末転倒になりかねません。
なぜ自社株評価が経営者にとって最重要課題なのか
顧問先のオーナー社長との面談で、自社株の話は毎年のように議題に上がります。理由は単純で、優良企業ほど自社株の評価額が跳ね上がり、相続税の負担が想定を超えるからです。
上場株式と違って、非上場株式は市場で売却して現金化することができません。評価額が高額でも、それは「紙の上の評価額」であり、相続人の手元には現金として一円も入ってきません。それでも相続税は評価額に応じて課税されるため、後継者は自社株を相続した瞬間に、多額の税金を現金で納める義務だけを背負うことになります。
これが「自社株は評価方法を理解し、計画的に下げておかないと危険」と言われる理由です。株価対策は相続税の節税策である以上に、後継者の資金繰り対策であり、事業承継そのものの成否を左右する経営判断です。
評価方式の全体像:会社規模と株主区分で決まる
非上場株式の評価は、まず「誰が持つ株式か」で大きく2つに分かれます。
- 支配権を持つ同族株主等が保有する株式:原則的評価方式(類似業種比準方式・純資産価額方式・その併用)
- 支配権のない少数株主が保有する株式:配当還元方式(実際の配当額を基準とする簡便な評価で、原則的評価より低くなるのが一般的)
原則的評価方式の対象となる場合、会社の規模区分(大会社・中会社・小会社)によって、類似業種比準方式と純資産価額方式のどちらをどの割合で使うかが決まります。おおまかに言うと、規模が大きい会社ほど類似業種比準方式のウェイトが高くなり、規模が小さい会社ほど純資産価額方式のウェイトが高くなります。この規模区分は従業員数・総資産価額・年間取引金額などで判定されるため(具体的な基準値は最新の通達で要確認)、期末の状況次第で区分が変わり、評価方式そのものが変わることもあります。
類似業種比準方式のカラクリ:利益をコントロールできる
類似業種比準方式は、自社の「配当」「利益」「純資産」を、同業種の上場企業の平均値と比較して株価を算定する方式です。ここで実務上重要なのが、3要素の中で利益の影響度が比較的大きく設計されているとされる点です。
つまり、決算期の利益を圧縮できれば、比較的短期間で株価を下げる効果が出やすいということです。よく使われる手法は次の通りです。
- 役員退職金の支給(功績倍率法などで算定した適正額の範囲内)
- 含み損のある資産の売却・処分
- 生命保険の活用(解約返戻金の設計により損金算入と資金準備を両立)
- 不良債権・不要在庫の整理による損失計上
いずれも「一時的に利益を落とす」ことで翌期以降の株価を引き下げる発想です。ただし、意図的な赤字経営を続けると金融機関からの信用低下につながるため、単年度の利益圧縮と、その後の業績回復のストーリーをセットで考える必要があります。
純資産価額方式のカラクリ:含み益と法人税相当額
純資産価額方式は、会社の資産・負債を相続税評価額で洗い替えし、その差額(純資産)を発行済株式数で割って1株あたりの評価額を出す方式です。ポイントは2つあります。
1つ目は、含み益のある資産(特に取得価額の低い土地や有価証券)を持っていると、相続税評価額ベースでは資産価値が膨らみ、株価が跳ね上がりやすいことです。2つ目は、評価差額(含み益)に対して法人税等相当額を一定割合控除できる仕組みがあることです(具体的な控除割合は最新の通達で要確認)。この控除があるため、あえて含み損のある資産を持たせたり、不動産を購入して評価差額を作ることで、純資産価額を圧縮する対策が広く使われています。
代表的なのが不動産の取得です。現金で不動産を購入すると、相続税評価額は時価より低くなる傾向があり(特に貸家や貸家建付地はさらに評価が下がる)、取得直後から純資産価額方式の評価額を引き下げる効果が出ます。ただし、相続直前の駆け込みでの不動産取得は、税務署から「租税回避目的」と指摘され、通達によらない時価評価(いわゆる総則6項の適用)を受けるリスクがあることが近年の裁判例でも問題になっています。不動産による対策は、実行時期と保有目的の説明ができる形で進めることが欠かせません。
株価引き下げの実務:業種別の具体策と順序
現場でよく組み合わせる対策の順序は次の通りです。
製造業・卸売業など資産保有型でない会社
- 役員退職金の支給で利益と純資産を同時に圧縮
- 退職金支給後の資金繰りを見据えて、生命保険で事前に原資を準備
- 後継者への役員就任・株式贈与(暦年贈与や相続時精算課税、事業承継税制の活用)を退職金支給の翌期以降に実行
不動産賃貸業・資産管理会社
- 賃貸不動産の取得・買い増しによる純資産価額の圧縮
- ただし直前の取得は総則6項リスクがあるため、数年単位の計画で実行
- 会社規模区分の変動(総資産の増加で大会社化するケースなど)も同時にシミュレーション
サービス業・小規模会社
- 配当還元方式が使える持株比率まで、後継者以外の親族への株式分散を検討
- 小規模であることを踏まえ、純資産価額方式単独評価になっていないかを確認し、類似業種比準方式との併用が可能な規模まで会社を成長させる選択肢も検討
いずれの対策も、単発で終わらせず「今の株価がいくらで、対策後にいくらになる見込みか」を毎期の決算時に試算しておくことが前提です。多くの会社では、株価がいくらか把握しないまま何年も経過し、いざ相続や事業承継のタイミングで初めて高額な評価額に気づく、というケースが少なくありません。
銀行・資金繰りへの影響を忘れずに
株価対策は税務の話に見えて、実際には資金繰りと銀行対応の話です。
役員退職金を支給すれば、会社のキャッシュはその分減ります。借入金の返済原資や運転資金に影響が出れば、金融機関への説明が必要になりますし、場合によっては退職金支給前に借換えや返済計画の見直しを相談しておく必要があります。
不動産を購入して評価差額を作る対策も同様です。購入資金を借入で賄う場合、会社の実質的な財務体質(自己資本比率や有利子負債の水準)が変わるため、既存の融資条件やコベナンツに影響しないか、事前に銀行と擦り合わせておくべきです。
株価対策は「相続税をいくら減らせるか」だけでなく、「その対策で会社の資金繰りと信用力にどんな影響が出るか」までセットで判断する経営判断です。税理士だけでなく、会社の財務を預かる立場として、金融機関とも対策の方向性を共有しておくことをお勧めします。
まとめ:まず一つだけやるとしたら
自社株の現在の評価額を、類似業種比準方式・純資産価額方式それぞれで一度試算してみてください。評価額が想定よりどれだけ高いか、どちらの方式が支配的かが分かれば、退職金なのか不動産なのか、打つべき対策の優先順位が見えてきます。何より、評価額を知らないまま相続を迎えることが一番のリスクです。個別の評価・対策の実行にあたっては、顧問税理士・当法人にご相談ください。
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