役員報酬は2000万円が分岐点。手取りを最大化する設定額とは
公認会計士・税理士の筧です。
結論から言います。役員報酬は「もらえばもらうほど得」ではありません。年収2000万円を超えたあたりから、所得税・住民税・社会保険料の合計負担率が法人の実効税率を上回り、会社に利益を残したほうが手取りの合計は多くなる傾向があります。利益規模によっては、役員報酬を全額取るより数百万円単位で損をするケースもあります。
よくある質問
Q1. 役員報酬はいくらに設定すれば一番手取りが多くなりますか?
会社の利益規模によりますが、役員報酬控除前の利益が3000万円程度の会社では、役員報酬500万〜1200万円あたりが「会社の手取り(内部留保)+個人の手取り」の合計が最大になるゾーンになりやすいという試算があります。この帯は報酬額を多少上下させても手取り合計にほとんど差が出ません。
Q2. 業績が悪化したら、期の途中で役員報酬を下げればいいのでは?
原則できません。役員報酬(定期同額給与)は期首から3ヶ月以内に決めたら、その事業年度中は原則変更できないルールです。期中に下げると、下げた分が損金不算入になり、法人税の負担が増える形で跳ね返ります。役員の地位の大幅な変更や経営状況の著しい悪化など、限定的な例外はありますが、原則は「期首3ヶ月が唯一の意思決定機会」だと考えてください。
Q3. 資本金2000万円という数字は、役員報酬の設定に関係ありますか?
資本金の大小そのものは、手取りを最大化する役員報酬額とは直接関係しません。中小企業(資本金2000万円未満)の役員報酬の平均は700万円弱程度というデータもありますが(最新の公表資料で要確認)、これは「参考値」であって「答え」ではありません。会社の利益水準ごとに手取り最大ゾーンは変わるため、自社の利益に合わせて試算することが重要です。
なぜ2000万円を超えると「取るほど損」になりやすいのか
毎月の面談で、業績好調な社長ほど「役員報酬を上げたい」とおっしゃいます。気持ちはよくわかりますが、ここには税と社保の構造上の落とし穴があります。
個人の所得税は超過累進課税で、課税所得が増えるほど税率が上がります。一般的な目安として、所得税の最高税率は45%程度、住民税は10%程度で、合わせると最大55%程度になるとされています(税率は毎年度の最新情報で要確認)。さらに社会保険料(健康保険・厚生年金)も報酬に応じて負担が増え、しかもこれは本人負担分だけでなく、会社側の折半負担分も同時に増えます。つまり役員報酬を上げると、個人の手取りが目減りするだけでなく、法人のコストも二重に増える構造になっています。
一方、法人税の実効税率はおおむね25〜34%程度(所得金額や資本金規模によって変動するため要確認)で、個人の所得税・住民税・社会保険料の合計負担率(高所得帯では40%台半ば程度)より低い水準に収まる傾向があります。年収5000万円クラスになると、税・社会保険料の合計負担率はおよそ44%程度という試算もあり、法人に利益を残したほうが実効負担率が低くなるラインが、年収2000万円あたりに存在すると考えられています。
数値で見る「手取り最大ゾーン」
具体例で見たほうが分かりやすいので、役員報酬控除前の利益が3000万円の会社を想定した試算例を紹介します(前提条件により変動するため、あくまで一例です)。
- 役員報酬500万円に設定 → 法人に利益を厚く残し、個人はそこそこの報酬。会社と個人の手取り合計はおよそ2026万円程度
- 役員報酬3000万円(利益を全額報酬として取る) → 個人の税・社保負担が重くなり、手取り合計はおよそ1615万円程度
差額はおよそ400万円程度。同じ利益3000万円の会社でも、報酬設定を変えるだけでこれだけの差が出る可能性があります。しかも面白いのは、この試算例の場合、役員報酬を500万円にしても1200万円にしても、手取り合計の差はほとんど出ないという点です。500万〜1200万円のレンジは、いわば「多少ずれても損をしにくい、おいしいゾーン」になりやすいと考えられます。
このゾーンの範囲は利益水準によって上下します。利益5000万円の会社と利益1500万円の会社では、当然おいしいゾーンの位置も変わります。「うちの場合はどこか」を毎期試算しておくことが、この論点における重要な実務対応です。具体的な数値は顧問税理士・当法人にご相談ください。
「期首3ヶ月ルール」が経営判断を難しくする理由
役員報酬(定期同額給与)は、期首から3ヶ月以内に決定した金額を、その事業年度中は原則として変え続けなければなりません。期中に増減させると、増額分・減額分の一部が損金不算入になり、法人税の負担が余計に増えるという税務上のペナルティが発生します。
これが厄介なのは、「今期の利益がいくらになるか」がまだ確定していない期首の時点で、1年分の役員報酬を決め切らなければならない点です。業績が読みにくい年ほど、この決定は難易度が上がります。
実務では、期首の段階で「保守的な着地見込み」「強気の着地見込み」の両方を試算し、その中間あたりで手取り最大ゾーンに収まる金額を選ぶという進め方をおすすめしています。期中に「思ったより儲かったから報酬を増やそう」という発想は、税務上は基本的に通用しないと考えておいてください。
資本金2000万円より「報酬設定額」が手取りを左右する
資本金の額(2000万円未満か以上か)は、税率区分や届出要件など別の論点では意味を持ちますが、役員報酬の手取り最大化という論点では主役ではありません。国税庁の調査でも、中小企業(資本金2000万円未満)の役員報酬平均はおおむね700万円弱程度という水準ですが(データの年度・最新公表資料で要確認)、これはあくまで平均値であり、あなたの会社の利益水準における最適解とは別物です。
「資本金がいくらだから役員報酬はいくら」という発想ではなく、「今期の利益(役員報酬控除前)がいくらで、そのうちどこまでを法人に残し、どこまでを個人が取るか」という設計をすることが本質です。ここを取り違えると、資本金の議論に気を取られて、本来検討すべき報酬額の試算を後回しにしてしまいます。
成長期か現状維持期かで設計は変わる
銀行融資を積極的に使う成長期の会社であれば、役員報酬は低め、会社に利益を残して自己資本を厚くし、決算書の見栄えを良くする設計が合理的です。金融機関は自己資本比率や利益の蓄積を融資判断の重要な材料にするため、役員報酬を上げすぎて法人の利益を薄くすることは、将来の借入枠を自分で狭めることにもつながりかねません。
一方、事業が安定期に入り、生活費や老後資金の準備を優先したい局面では、多少手取り効率が落ちても、個人に多めに取る設計を選ぶ判断もあり得ます。どちらが正解というより、会社のフェーズと社長個人のライフプランを合わせて、期首3ヶ月の間に試算しておくべき論点だということです。個別の判断は顧問税理士・当法人にご相談ください。
まとめ:まず一つだけやるとしたら
次の決算期が来る前に、今期の利益(役員報酬控除前)の着地見込みを試算し、その利益水準における「手取り最大ゾーン」を税理士と一緒に確認してください。期首3ヶ月を過ぎると1年間変更できなくなるため、この試算だけは決算前ではなく期首に済ませておく必要があります。
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