国内雇用者とは?賃上げ促進税制での定義と実務判定を解説
公認会計士・税理士の筧です。
国内雇用者とは、国内の事業所が管理する賃金台帳に記載されている使用人のうち、役員・使用人兼務役員・役員の親族等である使用人を除いた人を指します。パート・アルバイト・雇用保険の一般被保険者でない人も含まれる一方、役員関係者は原則すべて除外される点が実務でのつまずきどころです。この定義は、かつての所得拡大税制から現行の賃上げ促進税制に制度が変わった後も基本的な考え方は維持されています。
よくある質問
Q1. 役員の親族は絶対に国内雇用者から除外されますか。
原則として、役員の親族で「使用人としての職務に対する給与が実質的に役員報酬と一体化していると認められる者」は除外対象になります。ただし、単に親族だからという理由だけで一律に除外されるわけではなく、勤務実態・給与水準・他の使用人との待遇差などを踏まえて実質判断されるケースが多いです。判断に迷う場合は個別に税理士へ確認することをおすすめします。
Q2. パート・アルバイトは国内雇用者に含まれますか。
含まれます。雇用形態(正社員・パート・アルバイト・契約社員など)は問わず、国内の事業所の賃金台帳に記載され給与等が支払われている使用人であれば、雇用保険の一般被保険者に該当しない短時間労働者等も国内雇用者に含まれるのが一般的な取扱いです。
Q3. 出向者や海外勤務者はどう扱われますか。
海外の事業所に勤務している人は「国内」の要件を満たさないため対象外となるのが基本です。一方、出向元・出向先のどちらの賃金台帳に記載され給与を支払っているかによって判定が分かれるため、出向契約の内容を確認したうえでの実務判断が必要になります。
制度の変遷:所得拡大税制から賃上げ促進税制へ
国内雇用者という言葉自体は、2013年ごろに創設された所得拡大税制の時代から使われている概念です。その後、この制度は名称・要件を変えながら改組が続き、現在は賃上げ促進税制という名称で運用されています。制度名が変わっても、適用対象となる給与等の範囲を画定するための「国内雇用者」という定義そのものは大きくは変わっていません。
ネット上には所得拡大税制時代の古い解説がまだ多く残っており、控除率や上乗せ要件など制度の細部を確認する際に古い情報のまま参照してしまうケースが見られます。国内雇用者の定義部分は流用できても、控除率や適用要件は毎年のように見直されているため、最新の内容は国税庁の公表資料や税理士への確認が欠かせません。
国内雇用者に含まれる人・含まれない人の基準
現行制度でも、国内雇用者の判定基準は概ね以下のように整理できます。
- 国内の事業所の賃金台帳に記載されている使用人であること
- 雇用形態(正社員・パート・アルバイト・契約社員等)は問わない
- 雇用保険の一般被保険者に該当しない人(短時間労働者、65歳以上の高年齢者など)も含む
一方で、次に該当する人は国内雇用者から除かれます。
- 役員(取締役、監査役、執行役など)
- 使用人兼務役員(役員でありながら部長職などを兼ねる人)
- 役員の親族等で、実質的に使用人として認められない人
税務調査では、賃上げ促進税制の適用にあたって計算された給与等の増加額に、除外すべき役員報酬や役員親族の給与が混入していないかがよく確認されます。特に同族会社では、社長の配偶者や子どもが従業員として給与を受け取っているケースが多く、この給与を国内雇用者の給与等に含めてしまうミスが目立ちます。
実務で判断に迷うケース
役員の親族の範囲
役員の親族の範囲は、配偶者、六親等内の血族、三親等内の姻族などが一般的な目安とされますが、実際に除外対象となるかどうかは親族関係の有無だけで決まるわけではありません。他の使用人と同様の勤務実態があり、給与も同一の給与規程に基づいて支払われている場合は、国内雇用者に含めて判断されることもあります。判断が分かれやすい部分なので、毎期の適用可否を検討する際に議題に上がることが多い論点です。
出向者・派遣社員の扱い
出向者については、出向元・出向先どちらの賃金台帳に記載され、実際に給与を支払っているかで判定します。派遣社員は派遣元の使用人であるため、派遣先企業の国内雇用者には含まれないのが基本的な考え方です。派遣料を支払う側の会社が誤って派遣社員の給与相当額を自社の国内雇用者の給与等に含めて計算してしまう例も見られるため、給与台帳と契約形態を照らし合わせる確認作業が必要です。
外国人従業員・海外勤務者
国内の事業所に勤務し、日本国内で賃金台帳に記載されている外国人従業員は、国籍を問わず国内雇用者に含まれます。反対に、日本法人に籍があっても海外の現地法人や海外拠点に長期出向・派遣されている人は、国内の事業所に勤務しているとはいえないため対象外となるのが一般的です。
賃金台帳との紐付けと税務調査で見られる点
賃上げ促進税制の適用を検討する際、実務上は次の3点を賃金台帳と突き合わせて確認することが重要です。
1. 対象年度の給与等の総額に、役員報酬・役員親族の給与が混入していないか
2. 出向者・派遣社員の給与が誤って自社の国内雇用者の給与等に含まれていないか
3. 中途入社・退職者の給与が比較年度と適用年度で整合的に計算されているか
税務調査では、給与等の増加額の算定根拠として賃金台帳の写しの提出を求められることが多く、除外すべき人の給与が含まれていた場合は控除額の再計算や修正申告につながるおそれがあります。適用を受けた後に指摘を受けると、想定していた税額控除が減額される形になるため、資金計画に狂いが生じる点にも注意が必要です。
経営判断への翻訳:控除額は資金繰りの前提にしない
賃上げ促進税制による税額控除は、あくまで法人税額の一定割合を上限とした控除であり、業績が悪化して法人税額そのものが少ない年度には控除額が十分に活用できないこともあります。国内雇用者の給与等増加額を正確に計算したうえで、控除見込み額を資金繰り計画や来期の賃上げ判断の前提に置く場合は、控除額を過大に見積もらないことが大切です。特に銀行への事業計画提出時に賃上げ促進税制の効果を織り込む場合は、対象範囲を保守的に見て見込み額を算定しておくと、実際の控除額とのズレによる説明のしにくさを避けられます。
まとめ:まず一つだけやるとしたら
賃上げ促進税制の適用を検討している場合、まず賃金台帳を用意して、給与等増加額の計算に含めている人の中に役員・使用人兼務役員・役員の親族が混ざっていないかを一度確認してください。この確認だけで、後の税務調査で指摘を受けるリスクや控除額の再計算による資金計画のズレをかなり防ぐことができます。
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