賃上げ促進税制、出向者の給与は出向元と出向先どちらに算入する?
公認会計士・税理士の筧です。
結論から言うと、出向者の給与は「実際にその給与を経済的に負担した会社」の給与等支給額に算入します。出向元が給与を全額支払っていても、出向先から給与負担金を受け取っているなら、その受取分は出向元の支給額から差し引いて考えます。逆に給与負担金を支払った出向先は、その金額を自社の給与等支給額に含めて計算します。ここを誤ると、税額控除額の計算そのものが崩れます。
よくある質問
Q. 出向者の給与は出向元・出向先のどちらの賃上げ促進税制の計算に使いますか?
実際に給与を経済的に負担した側で計算します。出向先が出向元に給与負担金を支払っている場合は、出向先の給与等支給額に含め、出向元は自社の支給額から給与負担金相当額を差し引きます。名義上の支払者ではなく、実質負担者で判定されます。
Q. 給与負担金の取り決めがない出向はどうなりますか?
契約や実態から誰が実質的に負担しているかで判断されます。取り決めがなく出向元が全額負担している実態なら、出向元の給与等支給額にそのまま含まれます。曖昧な運用は税務調査で指摘対象になりやすいため、出向契約書に給与負担金の金額と算定根拠を明記しておくことをおすすめします。
Q. 出向者は「継続雇用者」に含まれますか?
継続雇用者給与等支給額の算定対象になるかどうかは別途判定が必要です。出向によって雇用保険の被保険者資格が継続しているか、前期・当期を通じて給与の支給を受けているかなど、一定の要件を満たすかで変わります。要件は改正で変わることがあるため、適用時に最新の内容を確認してください。
なぜこの論点でつまずくのか
賃上げ促進税制は、前期と当期の給与等支給額を比較して、増加率に応じて税額控除を受ける制度です。グループ会社間で出向を頻繁に使っている中小企業、建設業の常用出向、製造業の技術者出向、サービス業の人材シェアなどでは、「誰の給与としてカウントするか」で控除額が変わってしまいます。
毎月の面談でも、決算前になると「今期は出向者が多かったが、これは自社の賃上げ実績に入るのか」という質問を受けることが多い論点です。経営者の多くは「うちが給料を払っているから、うちの実績になるはず」と考えがちですが、税務上は「経済的に誰が負担したか」で判定されるため、給与負担金の授受があると計算が逆転することがあります。
出向元・出向先の基本整理
出向には大きく2つの給与の流し方があります。
- 出向元が給与を全額支払い、出向先が給与負担金を出向元に支払うパターン:出向先が経済的に給与を負担していると見るため、出向先の給与等支給額に給与負担金相当額を含めます。出向元は帳簿上は給与を支払っていますが、給与負担金を受け取っている分は相殺され、実質負担はゼロとみなされるため、その分は出向元の給与等支給額から除きます。
- 出向先が直接給与を支払うパターン:この場合はシンプルで、出向先の給与等支給額にそのまま含まれます。出向元は関与しないため計算対象外です。
ポイントは「誰が最終的に身銭を切っているか」です。形式的な支払い名義ではなく、実質負担者で判定される点は、外注費と給与の実態判定と同じ発想です。契約書の文言だけでなく、実際のお金の流れを見て判断されます。
給与負担金の金額設定を軽く見てはいけない理由
グループ会社間の出向では、給与負担金を「便宜的にキリのいい金額」で決めているケースを見かけます。しかしこの金額が実際の給与水準とかけ離れていると、次の2つの問題が出ます。
1. 賃上げ促進税制の計算そのものが歪む:出向先の給与等支給額が実態より少なく、または多く計上され、税額控除額の算定根拠として説明できなくなります。
2. 寄附金認定のリスク:給与負担金が実際の給与水準より著しく低い場合、出向元が出向先に対して経済的利益を無償で供与したとみなされ、寄附金として否認される可能性があります。
税務調査では、出向契約書、給与負担金の算定根拠資料(給与明細の写し、負担割合の計算式など)を求められることが一般的です。契約書に「給与負担金は出向者の給与・賞与・法定福利費の実費相当額とする」といった具体的な算定方法を明記しておくと、後々の説明がしやすくなります。
継続雇用者給与等支給額との関係で注意すること
賃上げ促進税制の控除額算定には、全体の給与等支給額の増加率だけでなく、「継続雇用者」に絞った給与等支給額の増加率を使う区分があります。適用要件は制度改正で変わるため、申告年度ごとの要件確認が必要です。
出向者がこの継続雇用者の対象に含まれるかどうかは、出向期間中も雇用保険の被保険者資格が継続しているか、前期・当期を通じて給与の支給を受けているかなど、個別の実態によって判断が分かれます。判定を誤ると継続雇用者分の税額控除額が想定より少なく、あるいは多く計算されてしまうリスクもあるため、出向契約の内容と給与支給の実態を照らし合わせたうえで、適用前に顧問税理士・当法人へご確認いただくことをおすすめします。
まとめ
賃上げ促進税制の給与等支給額は、名義上の支払者ではなく実質負担者で判定されます。出向者を多く抱える会社ほど、給与負担金の授受や継続雇用者の判定を誤ると、税額控除額の算定根拠が崩れ、税務調査での指摘や更正につながりかねません。この控除額は法人税申告の数字に直結し、金融機関への決算説明や資金繰り計画にも影響し得る項目です。出向契約書と給与負担金の算定根拠を整理したうえで、適用可否や計算方法については顧問税理士・当法人にご相談ください。







