税務調査当日の対応とNG行動|社長の受け答えで結果は変わる
公認会計士・税理士の筧です。
税務調査は「何を聞かれるか」より「どう答えるか」で結果が変わります。聞かれたことだけに答える、推測で話さない、原本は渡さない、スマホ・PCの提示要求には安易に応じない。この4原則を守れるかどうかで、調査が「確認だけで終わる調査」になるか「深掘りされる調査」になるかが決まります。
よくある質問
Q. 調査官に聞かれたことには全部正直に答えるべきですか?
正直に答えることと、聞かれてもいないことまで話すことは別問題です。事実を聞かれたら事実を答える。ただし「多分こうだったと思います」「たしかこの時期だったような」という推測での断定はしないでください。記憶が曖昧なら「確認して後日回答します」で構いません。曖昧な推測が調査官の記録に「社長の発言」として残り、後で覆せなくなるケースを何度も見てきました。
Q. スマホやPCを見せてほしいと言われたら渡すべきですか?
その場で無条件に渡す必要はありません。税務調査は原則として任意調査に位置づけられており、調査官が求めているのが「会社の経理データ」なのか「個人のプライベート情報も含む端末そのもの」なのかを区別する必要があります。会社のPC内の会計データを見せることと、社長個人のスマホを丸ごと預けることは意味が違います。何を確認したいのか目的を確認したうえで、必要な範囲(該当データの画面提示やコピー)で対応するのが基本です。
Q. 顧問税理士がいない、または当日同席できない場合はどうすればいいですか?
まず日程調整を申し出てください。税務調査の日程は、税理士との調整を理由に変更を申し出ることができるのが一般的です(実際に認められるかは調査官・状況により異なるため、要確認)。無理に社長一人で対応せず、経理担当者だけでも同席させ、その場での即答・即断は避けて「持ち帰って確認します」を徹底することが最低限のリスク回避になります。
なぜ当日の受け答えで結果が変わるのか
税務調査には大きく分けて「探す調査」と「確認する調査」の2種類があります。書類が整理されていて、質問に対して事実ベースで淡々と答える会社は「確認する調査」で終わりやすい一方、受け答えが曖昧だったり書類がバラバラだったりすると、調査官は「もっと深く見ないと分からない」と判断し、反面調査(取引先への照会)や過去年度への遡及にまで発展します。
調査官は帳簿や証憑だけでなく、社長や経理担当者の「話し方」も見ています。聞かれてもいないことを先回りして話す社長、感情的にムキになって反論する社長は、それだけで「何か隠しているのでは」という心証を持たれやすくなります。これは税務署員としての職業的な観察眼であり、悪気があるわけではありませんが、結果として調査範囲が広がる引き金になります。
当日のNG行動7選
現場で立ち会ってきた経験から、実際に調査結果を悪化させた、または悪化させかねなかった行動を整理します。
1. 聞かれてもいないことまで先回りして話す
不安から余計な説明を重ねると、調査官にとって新たな調査の切り口を与えることになります。
2. 推測や記憶が曖昧なまま断定的に答える
「たしかそうだったと思います」が議事録に「社長の証言」として残り、後で事実と食い違うと心証が悪化します。
3. 感情的に反論する、威圧的な態度をとる
指摘の是非は書面と根拠資料で争うべきで、その場の口論は何も解決しません。
4. 原本をその場で渡してしまう
コピーの提出・提示には応じても、原本は会社の管理下に置くのが原則です。原本を渡すと返却までのタイムラグや紛失リスクが生じ、後日の反論資料としても使えなくなります。
5. スマホ・PCを無条件にその場で預ける
何を確認したいのかを確認しないまま端末ごと渡すと、業務外の情報まで見られるリスクがあります。求められている情報の範囲を確認し、必要な画面・データのみ提示する対応が基本です。
6. 社長一人で全て抱え込み、経理担当者や税理士を同席させない
記憶違い・言い間違いのリスクが上がるだけでなく、専門的な質問に対してその場で誤った回答をしてしまう可能性が高まります。
7. その場で「修正します」「認めます」と即答してしまう
指摘内容によっては、その場での即答が不要な譲歩になることがあります。金額や事実関係を確認したうえで、後日正式に回答する姿勢を崩さないことが大切です。
原本の扱いとスマホ・PC提示要求への対応の線引き
税務調査における質問検査権は、事業に関する帳簿書類その他の物件を確認する権限として認められていますが、範囲は無制限ではありません。実務上の対応の目安は次の通りです(個別の適法性・妥当性の線引きは事案ごとに異なるため、判断に迷う場合は顧問税理士に確認してください)。
- 帳簿・請求書・領収書:コピーの提示・提出は基本的に協力すべき対象です。原本は会社側で保管し、必要に応じてその場でコピーを取って渡す運用が現実的です。
- 社内PC・会計ソフトのデータ:業務に関する範囲であれば画面提示や該当データの出力での対応が基本です。
- 社長個人のスマホ:業務用に使っている連絡履歴やメールが対象になることはありますが、プライベートの写真や個人アプリまで含めて端末ごと提出を求められる場合は、目的と根拠の説明を求めたうえで、必要な部分に限定して対応するのが妥当です。曖昧なまま拒否し続けると心証を害するリスクもあるため、「何のために」「どの範囲を」確認したいのかを明確にしてもらう対話が実務上のポイントになります。
このあたりの線引きは個別の状況判断が絡むため、当日その場で社長一人が判断するのではなく、顧問税理士に電話で確認する、あるいは同席してもらうのが最も安全です。
経営判断としての意味:当日対応は「日頃の管理」の結果でしかない
当日の受け答えをどれだけ工夫しても、帳簿や証憑がそもそも整理されていなければ深掘りは避けられません。逆に言えば、当日のNG行動を避けることは「守り」であって、調査結果を決めるのは日頃の管理水準です。領収書裏の一行メモ、役員報酬改定の議事録、月次での書類整理と保存年限の管理。これらが整っている会社ほど、当日の対応もシンプルで済みます。
追徴税額が発生すれば、法人税・消費税の本税に加えて過少申告加算税や重加算税、延滞税が上乗せされ(税率は事案の性質・時期によって異なるため、最新の税率は顧問税理士・当法人にご確認ください)、資金繰りに直接影響します。金融機関との取引がある会社であれば、税務調査での重加算税認定は決算書の信用にも影響し、追加融資や借換えの審査で不利に働くこともあります。「調査が来てから対処する」のではなく、「調査が来ても慌てない状態を日頃から作っておく」ことが、当日の受け答え以上に重要な経営判断です。
まとめ:まず一つだけやるとしたら
次回の税務調査(または現在進行中の調査)では、「聞かれたことだけに事実で答える。曖昧なら持ち帰る。」を社長本人と経理担当者の間で当日前に確認しておいてください。これだけで、調査当日の対応の質は大きく変わります。個別の判断に迷う場面では、顧問税理士・当法人にご相談ください。
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