税務調査は断れる?任意調査と強制調査(査察)の違い・日程変更は可能か
公認会計士・税理士の筧です。
結論から言うと、任意調査は「拒否」はできませんが「日程の調整」はできます。強制調査(いわゆるマルサ)は拒否も調整も一切できません。この違いを理解していない社長ほど、調査の電話が来た瞬間にパニックになるか、逆に「そんなの応じなくていい」と間違った強気に出て話をこじらせます。
よくある質問
Q. 税務調査は断ることができますか?
任意調査そのものを拒否することはできません。これは「受忍義務」と呼ばれ、正当な理由なく調査を拒否したり、質問に答えなかったり嘘の答弁をすると罰則の対象になり得ます(具体的な罰則の内容は国税通則法の規定によるため、最新の条文で顧問税理士にご確認ください)。ただし「調査に応じること」と「今日この時間に応じること」は別問題です。日程の変更は交渉可能です。
Q. 任意調査と強制調査(マルサ)はどう違いますか?
任意調査は国税局・税務署の通常の調査で、事前通知の上、社長・経理担当者・税理士の同意を得ながら進みます。強制調査は国税局査察部(通称マルサ)が裁判所の令状に基づいて行うもので、拒否も日程調整も一切できません。対象は脱税額が大きく意図的な仮装・隠蔽が疑われる悪質な事案に限られ、通常の中小企業の申告是正とは性質が異なります。
Q. 税理士の立会いは必須ですか?
法律上の義務ではありませんが、実務上はほぼ必須です。調査官の質問の意図を正確に理解し、余計な発言で不利な事実を作らないためには、税務調査の場数を踏んだ税理士の同席が事実上の防衛策になります。
「断れない」の正体は質問検査権
税務署・国税局の調査官には「質問検査権」という権限があります。帳簿書類を提示させ、事業内容について質問し、必要なら関係先にも照会できる権限です。これに対して納税者側には応じる義務、いわゆる受忍義務があります。
ここで誤解されやすいのが「受忍義務がある = 何を聞かれても即答しなければならない」という思い込みです。実際には、
- 質問の意味が分からなければ「確認してから回答します」でよい
- 資料がその場になければ「後日提出します」でよい
- 税理士に確認してから答えたい内容は保留してよい
というのが実務の現場感覚です。受忍義務は「調査そのものを拒否できない」という話であって、「その場で全て即答しなければならない」という話ではありません。この違いを理解していない社長は、調査官の質問に焦って余計な発言をし、後から訂正が効かなくなるケースが少なくありません。
任意調査と強制調査(査察)はここまで違う
「税務調査」と一括りにされがちですが、任意調査と強制調査は根拠法も進め方もまったく別物です。
| 項目 | 任意調査 | 強制調査(査察・マルサ) |
|—|—|—|
| 実施主体 | 税務署・国税局の調査部門 | 国税局査察部 |
| 根拠 | 質問検査権(受忍義務あり) | 裁判所の令状 |
| 事前通知 | 原則あり(税理士・納税者に連絡) | なし(抜き打ち) |
| 拒否・日程調整 | 拒否は不可、日程調整は可 | 拒否・調整とも不可 |
| 対象 | 通常の申告是正 | 悪質・大口の脱税が疑われる事案 |
中小企業の経営者が実際に経験する税務調査のほぼすべては任意調査です。強制調査は、意図的な売上除外や二重帳簿など、悪質性が高く金額も大きい事案に限定されます。「うちにマルサが来るかも」と怖がる相談を受けることがありますが、日頃の会計処理に意図的な隠蔽がなければ、通常はそこまでの話にはなりません。
日程変更は「拒否」ではなく「調整」
任意調査には通常、事前通知があります。この段階で調査日程の相談をするのは、拒否でも非協力でもなく通常の実務です。実際に日程変更が認められやすいのは次のようなケースです。
- 決算作業・繁忙期と重なっている(業種特有の繁忙期は説明すれば考慮されやすい)
- 立会い予定の税理士のスケジュールが合わない
- 社長本人が入院・出張などで対応不可能
- 資料の準備に一定の時間が必要
ポイントは「調査を受けたくないから」ではなく「準備を整えて正確に対応したいから」という理由で交渉することです。準備不足のまま調査当日を迎えると、その場しのぎの発言が増え、結果的に「探す調査」に発展しやすくなります。逆に、日程調整をして資料を整理してから臨む会社は「確認する調査」で早めに終わるケースが多いというのが現場の感覚です。
なお、日程変更の相談は税理士を通して行うのが基本です。社長本人が直接調査官とやり取りして曖昧な返事をしてしまうと、後の交渉材料を失うことがあります。
税理士の立会いが結果を左右する理由
税理士の立会いは法律上の義務ではありませんが、実務上は事実上必須と考えています。理由は主に3つです。
1. 質問の意図を翻訳できる:調査官の質問は法律用語や会計用語を前提にしていることが多く、社長がそのまま答えると意図とずれた回答になりがちです。
2. その場での即答リスクを防げる:役員報酬や外注費と給与の区分など、その場の一言で見解が固まってしまう論点は、税理士が「持ち帰って確認します」と一度止める判断ができます。
3. 交渉の窓口になれる:日程変更や資料提出期限の相談は、税理士が窓口になったほうがスムーズに進みます。
顧問税理士がいない、または調査対応の経験が少ない場合は、この段階でスポットの相談を検討する価値があります。
資金繰り・銀行対応への翻訳:調査は「来てから」ではもう遅い
参考資料にある国税庁の統計では、法人の実地調査は年間で全体の数%程度、頻度としては平均で数年に1回とされています(数値は年度により変動するため最新の国税庁統計で要確認)。一度の調査で追徴税額が発生すると、単純な計上漏れでも過少申告加算税(10〜15%程度)、意図的な隠蔽・仮装と判断されれば重加算税(35〜40%程度)に加え、延滞税(年2〜3%程度)が上乗せされます(いずれも税制改正の影響を受けるため最新の税率で要確認)。これらは想定外の資金流出であり、決算後に想定していなかったキャッシュアウトとして資金繰りを直撃します。
さらに追徴課税が発生した事実は、金融機関への融資審査でもマイナス材料になり得ます。決算書の信頼性そのものに疑問符がつくためです。「調査が来たときにどう交渉するか」より前に、日頃の帳簿整理・領収書の記録・役員報酬の議事録といった「調査が来る前の備え」が、実は最大の防衛策になります。日程交渉はあくまで「時間を稼いで準備を整える」ための手段であり、それ自体が調査結果を良くするわけではありません。
まとめ:まず一つだけやるとしたら
税務調査の通知が来たら、まず顧問税理士に連絡し「立会いの可否」と「日程調整の余地」を確認してください。拒否はできませんが、準備のための調整はできます。この一手間の有無が、調査が「確認する調査」で終わるか「探す調査」に発展するかを大きく分けます。個別の状況により対応は異なりますので、具体的な判断は顧問税理士・当法人にご相談ください。
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