公開日:2014年6月7日 | 最終更新:2026年8月21日
固定資産の無償譲渡は税務上どう扱う?国税庁の考え方と寄附金認定を避けるポイント
公認会計士・税理士の筧です。
固定資産を無償で譲渡しても、税務上は「時価で譲渡した」ものとみなされます。この時価相当額は原則として寄附金として認定され、法人税の計算上は損金にできない部分が出てきます。ただし、内部造作物のように譲渡先以外では使えず時価そのものが存在しないと判断できる資産については、寄附金認定を受けずに済むケースもあります。この線引きをどう考えるかが、実務では毎回悩みの種になります。
固定資産の無償譲渡 税務判定早見表
無償でも原則「時価で譲渡した」とみなされます。譲渡先ごとの扱いを下表で確認してください。
| 譲渡のパターン | 税務上の扱い | 寄附金認定 |
|---|---|---|
| 第三者へ無償譲渡(時価がある資産) | 時価で譲渡益を計上し、同額を寄附金とみなす | あり(損金算入に制限) |
| 時価がない資産(自社専用の内部造作物など) | 時価なしと判断されうる | 受けないことが多い |
| 完全支配関係のグループ会社へ | 寄附金・受贈益の特例(損金不算入/益金不算入) | 特例扱い |
| 役員・個人へ無償譲渡 | 役員給与・賞与等として別枠で判定 | 給与認定の可能性 |
よくある質問
Q. 固定資産を無償で譲渡すると必ず寄附金になりますか?
時価が存在する資産を無償で譲渡した場合は、原則として時価相当額が寄附金として認定されます。一方、時価そのものが認められない資産(自社でしか使えない内部造作物など)については寄附金認定を受けないケースが一般的です。個別の判断は資産の性質と契約関係次第なので、譲渡前に税理士へ確認することをおすすめします。
Q. 内部造作物や建物付属設備を無償で譲渡・処分した場合はどうなりますか?
賃貸物件から退去する際に残していく内部造作物のように、他社に転用できず廃棄せざるを得ないものは、時価がないと判断されることが多いです。この場合は無償で引き渡しても寄附金認定を受けないと考えられますが、原状回復義務の有無や契約書の内容によって判断が変わる点には注意が必要です。
Q. 子会社やグループ会社への無償譲渡でも同じ扱いになりますか?
完全支配関係にあるグループ会社間の資産の無償譲渡は、寄附金・受贈益の取扱いについて通常の第三者間譲渡とは異なる特例が設けられています。グループ内かどうかで税務処理が大きく変わるため、グループ会社間で固定資産を無償譲渡する予定がある場合は、実行前に必ず税理士に相談してください。
なぜ無償でも「時価で譲渡した」とみなされるのか
法人税の考え方では、資産を譲渡した際の収益は、実際にいくらで売ったかではなく、原則としてその時点の時価で認識します。これは国税庁が示す資産の譲渡や役務の提供に関する基本的な考え方に基づくもので、無償譲渡であっても「時価で売却し、その代金と同額を相手に寄附した」という二段階の取引があったとみなして税務処理を行います。
つまり無償譲渡でも、
1. 時価相当額の譲渡収益を計上する
2. 同額を寄附金として支出したとみなす
という2つの処理が同時に発生します。譲渡収益と寄附金支出が同額であれば損益的にはプラスマイナスゼロに見えますが、税務上は寄附金には損金にできる金額の上限があるため、結果的に法人税の負担が増えるケースが出てきます。
寄附金認定されると資金繰りにどう響くか
寄附金は、法人が支出した全額を損金にできるわけではありません。会社の資本金や所得の額などに応じて損金にできる上限額が決められており、上限を超える部分は損金不算入となり、その分だけ法人税の課税対象が増えます。具体的な算定式や基準額は改正の可能性があるため、実際の計算は最新の情報をもとに税理士へ確認してください。
ここで重要なのは、無償譲渡そのものにキャッシュの動きがないという点です。資産を渡しただけでお金は一切入ってきていないのに、税務上は「時価で売って、その代金を寄附した」とみなされるため、実際の現金の動きと税負担のタイミングがずれます。
- 資産を無償で渡した(キャッシュアウトなし)
- 税務上は時価相当の収益と寄附金が両建てで発生
- 寄附金の損金不算入分だけ法人税の実質負担が増える
こうした予期しない税負担の増加は、当期利益や納税資金の見込みに直結し、金融機関への業績説明や追加融資の相談にも影響しかねません。無償譲渡を検討する段階で、税務上のコストと資金繰りへの影響をあわせて試算しておくことが望ましいでしょう。
決算面談でも「古い機械を取引先に無償で渡しただけなのに、なぜ税金が増えるのか」という相談を受けることがあります。無償譲渡は経営判断としては善意や関係維持のためであっても、税務上は思わぬコスト増になり得るという点を、実行前に把握しておく必要があります。
時価がないと判断されるケースの具体例
既存の実務判断でも触れられているとおり、次のような資産は「時価がない」と評価できる余地があります。
- 賃貸物件から退去する際に残していく内部造作物、建物付属設備
- 自社の業務仕様に合わせて作り込まれ、他社では転用が難しい設備
- 原状回復義務のある賃貸借契約に基づき、廃棄・撤去が前提となっている資産
これらは、譲渡先以外に買い手が想定できず、市場で取引される価格そのものが成立しないため、時価をゼロと評価できると考えられます。時価がゼロであれば、無償で引き渡しても「時価との差額」が生じないため、寄附金認定を受けないという結論になります。
一方で、次のようなケースは時価があると判断されやすく、注意が必要です。
- 中古市場が存在する機械設備、車両、パソコンなど汎用性のある資産
- 建物本体や土地など、他者への転用・転売が明らかに可能な資産
- 償却が進んでいても取引実例のある資産
「古いから価値がない」という感覚的な判断ではなく、市場で取引可能かどうか、他社に転用できるかどうかという客観的な基準で判断される点を押さえておく必要があります。
税務調査で見られるポイント
無償譲渡について税務調査で確認されやすいのは、次のような点です。
- 譲渡した資産の時価をどう算定したか、その根拠資料(見積書、鑑定評価、償却資産の未償却残高など)が残っているか
- 「時価がない」と判断した根拠(賃貸借契約書の原状回復条項、転用不可であることを示す資料)が説明できるか
- 無償譲渡の相手と会社の関係性(取引先、役員、グループ会社など)によって取扱いが変わるため、契約書・議事録などで経緯を残しているか
実務上は、無償譲渡を決める前に「なぜ無償なのか」「時価がないと考える根拠は何か」を社内の稟議や契約書に記録しておくことが、後の税務調査での説明力を大きく左右します。口頭説明だけで押し切ろうとすると、税務調査で時価があるとみなされ、追徴税額や加算税(過少申告加算税など)につながるリスクが高まります。加算税の名称や税率も改正され得るため、最新の内容は税理士に確認してください。
グループ会社・役員個人への無償譲渡は別枠で考える
完全支配関係にあるグループ会社間の資産の無償譲渡は、グループ法人税制の枠組みで通常とは異なる取扱いがされると考えられています。一般的には、寄附金を支出した側は全額損金不算入、受け取った側は受贈益を全額除外する、といった処理がされますが、要件や範囲は改正の対象になり得るため、単体の会社間譲渡とは処理が異なる前提で、グループ内での資産移動を検討している場合は個別に確認が必要です。
また、役員や従業員に固定資産を無償で譲渡する場合は、寄附金の問題に加えて、時価相当額が給与や役員報酬として認定される可能性があります。この場合は法人側の損金不算入だけでなく、受け取った個人側の所得税・住民税の負担も発生する可能性があるため、影響範囲がより広くなります。
まとめ:まず一つだけやるとしたら
固定資産を無償で譲渡する予定がある場合は、実行前に「この資産に時価はあるか」を書面で整理してください。時価がありそうなら寄附金認定を前提に損金不算入額を試算し、時価がないと考えられるなら賃貸借契約書や転用不可であることを示す資料を残す。この一手間が、税務調査での説明力と法人税負担の見通しを大きく変えます。最新の税率・損金算入上限・グループ法人税制の要件は改正の可能性があるため、実行前に国税庁の公表資料や税理士への確認を必ず行ってください。
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税理士法人グランサーズ所属の公認会計士・税理士、BackofficeForce株式会社 代表取締役CEO。中小企業オーナーの税務・資金繰り・銀行対応から経営判断までを一体で支援。YouTube「社長の資産防衛チャンネル」で情報発信を行う。
税理士法人グランサーズ所属の公認会計士・税理士、BackofficeForce株式会社 代表取締役CEO。数字の裏にある経営判断を重視し、中小企業オーナーの税務・資金繰り・銀行対応を支援。YouTube「社長の資産防衛チャンネル」で、経営者に向けて税務とお金の知識を発信しています。






