制度融資と公庫の創業融資、どちらを選ぶべきか
公認会計士・税理士の筧です。
結論から言うと、創業期の資金調達で「借りやすさ」だけを基準に選ぶと、2期目・3期目の融資で困ることになります。多くのケースで公庫の創業融資を軸にしつつ、業種や今後の資金需要によって制度融資を併用するのが現実的な判断です。理由は、金利や保証料の差以上に「どの金融機関と最初に取引実績を作るか」が将来の借入条件を左右するからです。
よくある質問
Q. 制度融資と公庫の創業融資、何が違うのを一言で言うと?
資金の出し手と審査の主体が違います。公庫は政府系金融機関そのものが審査し、直接貸し付けます。制度融資は地方自治体が用意した融資枠に信用保証協会の保証を付け、実際の貸付は民間の銀行・信用金庫が行う仕組みです。関わる機関の数がそもそも違います。
Q. どちらが早く借りられますか?
一般的には公庫の方が早い傾向にあります。申込から実行まで1ヶ月前後が目安とされます。制度融資は自治体の審査、信用保証協会の審査、金融機関の審査という3段階を経るため、2〜3ヶ月程度かかるケースが多く見られます(案件・自治体により差があります)。
Q. 迷ったら両方申し込んでもいいですか?
可能です。ただし審査中に事業計画や資金使途の整合性を問われるため、同じ資料を使い回すのではなく、それぞれの審査の視点に合わせて説明を用意しておく必要があります。両方から満額に近い額が出た場合、返済負担が過大にならないか事前に試算しておくことも重要です。
制度融資と公庫、そもそも仕組みが違う
創業融資の相談で最初に整理すべきは「誰がお金を貸しているのか」です。
日本政策金融公庫は、公庫自身が審査し、公庫自身が貸し付けます。担保・保証人なしで利用できる制度が用意されており、創業前後の実績が少ない事業者でも事業計画書ベースで審査される点が特徴です。
制度融資は、地方自治体・信用保証協会・民間金融機関の三者が連携する仕組みです。自治体が用意した融資枠に対して信用保証協会が保証を付け、実際の貸付・回収は地銀や信用金庫が行います。関わる機関が多い分、審査に時間がかかりやすく、保証協会への保証料も別途発生します。
この構造の違いが、後述する「金利・保証料・スピード・限度額」の差、そして「将来どの金融機関と付き合うことになるか」という経営判断につながります。
金利・保証料・スピード・限度額を比較する
一般的な目安として、以下のような傾向があります(制度・自治体・時期により変動するため、必ず最新の公庫・自治体・保証協会の情報で確認してください)。
| 項目 | 公庫の創業融資 | 制度融資(信用保証協会保証付き) |
|—|—|—|
| 審査主体 | 公庫が直接審査 | 自治体・保証協会・金融機関の三者 |
| 金利 | 公庫所定の基準利率(要件により低利特例あり) | 金融機関所定金利に保証料が上乗せ |
| 保証料 | 原則不要(無担保無保証人枠あり) | 保証協会への保証料が別途発生(自治体により補助あり) |
| スピード | 比較的早い(目安1ヶ月前後) | 三者を経るため時間がかかりやすい(目安2〜3ヶ月) |
| 限度額 | 制度ごとに上限あり | 自治体の制度ごとに上限が異なる |
| 今後の銀行取引 | 公庫との実績に留まる | 地銀・信金との取引実績になる |
金利や保証料の絶対値だけを比べると制度融資の方が割高に見えることがありますが、自治体によっては信用保証料や利子の一部を補助する制度があり、実質負担が下がるケースもあります。数字だけで判断せず、自分の事業が対象になる自治体の制度融資要項を確認する必要があります。
なぜ「借りやすさ」だけで選ぶと後で困るのか
ここが実務で一番見落とされているポイントです。
創業融資で借りたお金は、いずれ会社の決算書に「借入残高」として残ります。そしてこの借入残高は、将来の銀行格付けを決める「債務償還年数」の計算に使われます。債務償還年数は、借入残高を経常利益と減価償却費の合計で割った数値で、10年以内が安全圏、15年超で要注意とされる指標です。つまり、創業時にどこからいくら借りたかは、数年後の追加融資の通りやすさに直結します。
さらに重要なのが「取引実績」です。公庫からの借入は公庫との関係にしかなりませんが、制度融資で地銀や信用金庫から借りれば、その金融機関との取引実績が創業初年度から積み上がります。将来、店舗の拡大や設備投資でまとまった追加融資が必要になったとき、ゼロから金融機関を探すのと、創業期から付き合いのある担当者に相談するのとでは、稟議の通りやすさが変わってきます。担当者は稟議書を書く人であり、経営の中身を説明できる関係があるかどうかが条件に影響するからです。
ケース別の判断基準
創業融資の相談を受けるとき、筧は次のような基準で整理しています。
- 自己資金が少なく、とにかくスピードを優先したい
公庫の創業融資を軸に検討します。無担保無保証人の枠があり、事業計画書ベースで審査されるため、業歴なしでも通りやすい傾向があります。
- 店舗・製造業など、今後も設備投資が続く見込みの業種
制度融資を使って地元の信用金庫・地銀と早期に関係を作ることを勧めます。創業融資は最初の取引実績であり、2回目・3回目の融資での交渉材料になります。
- 複数拠点展開など、資金需要が大きくなる見込みがある
公庫と制度融資を組み合わせて資金調達の枠を分散させる選択肢もあります。ただしどちらも同時進行で審査を受ける場合、返済負担の合計が事業計画に対して過大にならないか、事前に試算しておく必要があります。
- 士業・フリーランスなど、実績より事業計画の説明力で勝負するケース
公庫の方が事業計画書中心の審査に馴染みやすく、通りやすいケースが多く見られます。
まとめ:まず一つだけやるとしたら
まず一つやるべきは、事業計画書を先に作ることです。金融機関を選ぶ前に「いくら必要か」「何に使うか」「いつ黒字化するか」を数字で説明できる計画書を用意しないと、公庫でも制度融資でも審査は通りにくくなります。そのうえで、公庫と自治体の制度融資要項を並べて、自己資金・スピード・今後の資金需要と照らし合わせて選ぶ。判断に迷う場合は、決算書と事業計画の両方を見た専門家に一度相談することをお勧めします。
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