M&A・会社売却の相談先はどこがいい?仲介とFAの違い

M&A・会社売却の相談先はどこがいい?仲介とFA・税理士の違いと選び方

公認会計士・税理士の筧です。

結論から言うと、会社売却の相談先に「唯一の正解」はありません。ただし、報酬体系と利益相反の構造を理解せずに相談先を決めると、価格交渉で不利になったり、税金の設計を後回しにして手取りが大きく減ったりします。相談先ごとの立ち位置を知った上で、複数を組み合わせるのが実務上の正解です。

よくある質問

Q1. M&A仲介とFA(フィナンシャルアドバイザー)はどちらに頼むべきですか?

売り手として最大限の価格・条件を引き出したいなら、売り手の利益だけを代弁するFAが有利です。ただし対応してくれる案件規模や候補企業の数はFAの方が限定的になりやすく、仲介会社は買い手候補との接点が多い分、スピードは出ます。中小企業のM&Aでは仲介利用が主流ですが、「仲介は両手仲介で利益相反が起きうる」という前提を知った上で使うことが重要です。

Q2. 顧問税理士にM&Aの相談をしてもいいのでしょうか?

むしろ最初に相談すべき相手の一人です。顧問税理士は決算書の中身、株価、社長個人の資産状況、家族構成まで把握しているため、企業価値評価と税負担の試算を最も早く・正確に出せます。ただし仲介機能(買い手探し・交渉)まで対応できるかは事務所によって差があるため、M&A実務に対応できるかどうかは事前に確認が必要です。

Q3. 会社がいくらで売れるか、無料で概算は分かりますか?

簡易的な目安であれば、EBITDA(税引前利益+減価償却)に業種ごとの倍率をかける方法で概算が出せます。中小企業のM&Aでは EBITDA×5〜6倍が一つの目安とされますが、業種・収益の安定性・顧客の集中度・社長個人への依存度によって大きく変動します(このあたりの数値は取引時点の相場感を必ず確認してください)。無料相談で概算を出す仲介会社・公的機関もありますが、1社の査定だけで判断するのはリスクがあります。

なぜ相談先選びで多くの社長がつまずくのか

毎月の面談で事業承継(相談先の選び方はこちら)の話をしていると、「知り合いの銀行担当者に紹介された仲介会社1社だけで話を進めていた」という社長に頻繁に出会います。その仲介会社が悪いわけではありませんが、1社だけの査定・1社だけの交渉ルートで話を進めると、提示された価格が高いのか安いのか比較のしようがありません。実際に、複数の仲介会社に査定を依頼した結果、数百万円単位の差が出た事例も珍しくないと言われています。

会社売却は住宅の売却と同じで、「不動産会社を1社だけ回って即決する人」がリスクを負うのと構造は同じです。相談先の違いを知り、複数のルートを比較検討する姿勢がまず重要になります。

相談先6種類の役割と報酬体系の違い

会社売却・M&Aの相談先は、大きく分けて次の6つです。それぞれ立場と報酬の取り方が異なります。

| 相談先 | 立場 | 報酬体系 | 強み | 注意点 |

|—|—|—|—|—|

| M&A仲介会社 | 売り手・買い手の双方を仲介 | 成功報酬(レーマン方式が主流) | 買い手候補のネットワークが広く、成約までのスピードが出やすい | 両手仲介による利益相反の可能性 |

| FA(フィナンシャルアドバイザー) | 売り手(または買い手)のみの代理人 | 成功報酬+着手金・中間金が一般的 | 依頼者の利益だけを追求できる | 対応できる案件規模・候補数が限定的になりやすい |

| 税理士(M&A対応可能な事務所) | 顧問先の実態を知る立場 | 顧問料+個別業務の報酬 | 株価評価・税務・資金繰りまで一気通貫で見られる | 仲介機能の有無は事務所差が大きい |

| 銀行 | 融資取引先としての立場 | 紹介手数料・成功報酬(取引金融機関経由) | 融資先の中から買い手候補を紹介できるネットワーク | 自行の融資回収・取引維持が優先されることがある |

| 事業承継・引継ぎ支援センター | 公的機関(中立) | 原則無料(マッチングまで) | 費用をかけずに相談・マッチングできる | 対応スピードが緩やかで、案件によっては時間がかかる |

| M&Aマッチングサイト | プラットフォーム提供者 | 登録・成約手数料(サイトにより異なる) | 低コストで多数の候補と接点を持てる | 交渉・DD対応は自社で行う必要がある場面が多い |

レーマン方式の料率や公的機関の無料範囲は制度・事務所ごとに変わるため、実際に依頼する前に必ず契約条件を書面で確認してください。

仲介とFA、利益相反の注意点

ここが最も誤解されやすいポイントです。M&A仲介会社は「売り手と買い手の両方」から手数料を得る両手仲介の形態を取ることが多く、これ自体は違法でも悪でもありません。ただし構造上、仲介会社にとっては「早く・確実に成約すること」が最優先になりやすく、売り手にとっての最高値を追求するインセンティブは、FAほど強く働かない場合があります。

一方、FAは売り手だけの代理人として動くため、価格交渉で妥協しにくいというメリットがある反面、案件によっては買い手候補との接点が仲介会社より少なく、成約までの期間が長引くことがあります。

実務上の落としどころとしては、

  • 中小規模で早期成約を優先するなら仲介会社(ただし複数社に査定依頼)
  • 譲渡価格の最大化や条件交渉を最優先するならFA
  • そのどちらを選ぶにしても、税務・企業価値評価の妥当性は顧問税理士にセカンドオピニオンを取る

という組み合わせが現実的です。1社の仲介会社だけを信じて進めるのではなく、「複数の仲介会社から査定を取り、提示額の根拠(業種倍率・EBITDA・DDでの減額要素)を比較する」姿勢が、結果として数百万円単位の差を生みます。

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会社はいくらで売れるのか。譲渡代金と税金の概略

中小企業のM&Aでは、EBITDA(税引前利益+減価償却費)に業種や収益安定性に応じた倍率をかけて譲渡価格の目安を出す方法がよく使われます。目安として EBITDA×5〜6倍程度とされることが多いですが、これはあくまで相場感であり、社長個人への業務依存度が高い会社、顧客が数社に集中している会社は倍率が下がりやすく、逆に安定した収益基盤と幹部体制がある会社は倍率が上がりやすい傾向があります。

譲渡代金が確定した後、オーナー個人にかかる税金も無視できません。株式譲渡の場合、譲渡益(譲渡代金から取得費等を差し引いた額)には分離課税がかかり、税率はおおむね20%台とされています(具体的な税率は最新の税制で必ず確認してください)。手法(株式譲渡・事業譲渡の違い)によって税負担の構造が変わるため、この違いの詳細は別記事で解説していますが、いずれにしても「譲渡代金が大きいほど税額も大きくなる」という単純な話ではなく、株価評価のタイミングや退職金の活用によって税負担を圧縮できる余地があります。

相談すべきタイミングは、思っているより早い

M&Aの交渉期間は半年から2年程度かかることが一般的です。ここに、事業承継税制(自社株の相続・贈与にかかる税を猶予する制度)の期限や、業績のタイミングも重なってきます。

現場でよく見る失敗パターンは次の3つです。

1. 交渉開始が遅い:業績が悪化してから、あるいは引退直前になってから動き出すと、買い手から見たリスクが高く評価され、価格が下がりやすくなります。安定して利益が出ている時期こそ、交渉を始める好機です。

2. 資料が社長の頭の中にしかない:取引先ごとの契約条件、暗黙のルール、労務関係の未整備事項などが、買い手側のデューデリジェンス(DD)で初めて発覚し、そこから減額交渉や破談につながるケースがあります。

3. 社員への情報開示が中途半端:交渉中であることが早い段階で漏れると、主力社員の離職や取引先の不安を招き、企業価値そのものが下がります。交渉情報はトップと限定された役員のみで共有し、NDA(秘密保持契約)を徹底した上で、重要社員への開示タイミングと処遇を事前に設計しておく必要があります。

早く相談を始めるほど、株価が低い時期を選んで動く、役員退職金を活用して評価を引き下げるといった選択肢が使えます。逆に言えば、相談が遅れるほど選べる手段は減っていきます。

M&Aに強く税務まで一気通貫で見られる税理士法人に相談するメリット

仲介会社やFAは「買い手を見つけて成約させる」ことに強みがありますが、その前提となる企業価値評価・株価算定・譲渡後の税負担の最小化は、税務の専門知識がなければ精度が上がりません。特に、

  • 自社株の評価額を下げるための退職金支給や利益調整のタイミング
  • 事業承継税制の活用可否と期限の確認
  • 譲渡スキーム(株式譲渡・事業譲渡)による税負担の違いのシミュレーション
  • 従業員の雇用維持や取引先への影響を踏まえた条件交渉の伴走
  • 「M&Aで売る」か「後継者不在のまま廃業する」かの比較検討

といった論点は、顧問先の実態を日頃から把握している税理士だからこそ、早い段階で精度の高い試算を出せます。廃業を選んだ場合、企業価値がほぼゼロ評価になるだけでなく、原状回復費用や個人保証付き借入の一括返済請求といった損失が重なることもあるため、後継者不在であってもまずM&Aの可能性を数字で比較しておく価値はあります。

仲介やFAへの相談と並行して、税務・企業価値評価に強い税理士法人に相談窓口を持っておくことで、「仲介会社の提示額が妥当か」「この条件で手取りはいくら残るか」をセカンドオピニオンとして確認できる体制が作れます。

まとめ:まず一つだけやるとしたら

会社売却を考え始めたら、まず顧問税理士(またはM&A対応可能な税理士法人)に、簡易的な企業価値評価と税負担の試算を依頼してください。これは数時間の打合せで着手でき、その後に仲介会社やFAへ相談する際の「比較の物差し」になります。1社の査定・1社の交渉ルートだけで進める前に、この一手を挟むかどうかが、最終的な手取り額を大きく左右します。

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執筆・監修:筧 智家至(かけひ ちかし)/辻 哲弥(つじ てつや) 公認会計士・税理士

税理士法人グランサーズ所属の公認会計士・税理士、BackofficeForce株式会社 代表取締役CEO。中小企業オーナーの税務・資金繰り・銀行対応から経営判断までを一体で支援。YouTube「社長の資産防衛チャンネル」で情報発信を行う。

この記事を書いた人
筧 智家至

公認会計士・税理士:筧 智家至

税理士法人グランサーズ所属の公認会計士・税理士、BackofficeForce株式会社 代表取締役CEO。数字の裏にある経営判断を重視し、中小企業オーナーの税務・資金繰り・銀行対応を支援。YouTube「社長の資産防衛チャンネル」で、経営者に向けて税務とお金の知識を発信しています。

辻 哲弥

公認会計士・税理士:辻 哲弥

税理士法人グランサーズ共同代表。監査法人トーマツで上場企業の会計監査に従事後、23歳で独立。2023年に自身の事務所をグランサーズへ統合し共同代表に就任。「資産防衛」と「事業成長」を軸に経営者を支援し、YouTube「社長の資産防衛チャンネル」でも発信しています。

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