ビットコインなどに大きな含み益がある方が必ず直面するのが「売れば課税される。でも現金は必要」という問題です。その第三の選択肢が暗号資産担保ローンです。最初に断っておくと、これは節税ではなく「課税の先送り」。仕組みとリスクを正しく理解して使えば有効ですが、誤解したまま使うと大きな損失につながります。
「売りたくないが現金が必要」という問題
個人が暗号資産を売却すると、売却益は雑所得として総合課税となり、他の所得と合算して最大55%(所得税45%+住民税10%)が課されます。たとえば500万円で買ったビットコインが5,000万円になっていれば、売却益4,500万円に対し最大2,475万円が税金で消えます。この「税金の壁」を前に売却をためらう一方、事業投資・不動産・相続対策などの現金ニーズは確実にある——この矛盾を解くのが担保ローンです。
暗号資産担保ローンとLTVの仕組み
保有する暗号資産を担保として差し入れ、評価額の一定割合を借り入れます。担保は「売却」されていないため課税イベントは発生しません。鍵になるのがLTV(担保評価額に対する借入割合)です。
| 設計例 | 担保(時価) | 借入額 | 金利目安 | 安全余裕 |
|---|---|---|---|---|
| LTV50%(借入重視) | 5,000万円 | 2,500万円 | 年6%前後 | 約30%下落で清算リスク |
| LTV30%(保守的) | 5,000万円 | 1,500万円 | 年4%前後 | 約70%下落まで耐性 |
税務の正確な理解
- 借入金は課税対象ではない(負債であり所得ではない)
- 担保に差し入れただけでは課税されない(課税は売却・交換・決済の時点)
- マージンコールで強制売却されると課税される(売りたくない時に売却益が確定=最悪のシナリオ)
- 出口で売却すれば必ず課税(「永遠に借り続ければ非課税」は誤り。金利が累積する)
- 法人保有は期末に時価評価課税:活発な市場のあるBTC・ETH等は含み益に法人税(実効約30〜33%)がかかる(2023年度改正で自己発行以外は引き続き対象)
最大リスク=マージンコール(2022年の実例)
担保価値が急落しLTV上限を超えると、追加担保の差し入れか強制清算が発生します。2021年11月に約730万円だったビットコインは2022年11月に約170万円(約77%下落)まで下げ、LTV50%で借りていた多くが強制清算に直面しました。対策は①LTVを30〜40%に低く抑える②急落時に差し入れる流動資産を別途確保③担保の分散。「急落時に追加担保を用意できるか」が利用の前提条件です。
どこで借りられるか
- 国内取引所:登録事業者で手続きは透明。金利は高め(年6〜12%程度)
- 海外プライベートバンク・EAM:低LTVで金利を抑えられる(年3〜7%程度)。数千万円〜の富裕層・法人向け。海外資産5,000万円超は国外財産調書の提出義務に注意
- DeFi:仲介なしで借りられるが、スマートコントラクトの脆弱性・自動清算・税務の不確実性など上級者向けリスクがある
向いている人・向いていない人
向いている:長期保有前提で具体的な現金ニーズがあり、LTVを低く抑えられ、急落時の追加担保を持ち、税理士と出口まで設計できる人。向いていない:急落時に追加担保を用意できない、「ずっと借り続ければいい」と考えている、金利コストを計算せず「節税になる」と誤解している人。
まとめ
担保ローンは「売るか持つか」の二択を「借りながら持ち続け、出口を設計する」第三の選択肢に変えます。ただし金利は必ずかかり、マージンコールで強制清算されれば最悪のタイミングで課税され、出口で売れば課税されます。節税ではなく課税の先送り——この前提を正しく理解し、税理士と一緒に設計してください。
中小企業オーナーの税務・資金繰り・資産防衛を専門とし、年間100社以上のオーナーと毎月面談。数字の裏にある経営判断を支援。
よくある質問
Q. 暗号資産を売らずに現金を調達する方法はありますか?
暗号資産を担保に借り入れる「クリプト担保ローン」を使えば、売却せずに現金を調達できます。保有するBTC・ETH等を担保に差し入れ、評価額の一定割合(LTV、通常30〜60%程度)を借り入れます。ただし担保価値が下落しLTV上限を超えると追加担保か強制清算(マージンコール)が発生します。担保ローンは課税の先送りであり、出口で売却すれば課税されます。
Q. 暗号資産担保ローンを使うと税金はかかりますか?
借入自体は課税対象ではありません。暗号資産の課税イベントは売却・交換・決済の時点です。担保に入れているだけ、借りた現金を受け取るだけでは課税されません。ただしマージンコールで強制売却された場合や、返済のために売却した場合は売却益が課税対象になります。個人は雑所得・総合課税(最大55%)、法人は法人税率(約30〜33%)です。
Q. 金利はどのくらいで、どこで借りられますか?
一般に年3〜12%程度が相場です。国内取引所は手続きが透明な一方で金利は高め(6〜12%程度)、海外のプライベートバンク・EAMは低LTVで金利を抑えられる(3〜7%程度)ケースがあり富裕層・法人向けです。DeFiは仲介なしですがスマートコントラクトや自動清算のリスクがあります。売却時の税金総額と5〜10年単位で比較して判断すべきです。
Q. 担保に入れた暗号資産が下落したらどうなりますか?
LTV上限を超えると追加担保の差し入れか強制清算(マージンコール)になります。対策は、①LTVを30〜40%に低く設定する、②追加担保にできる現金・資産を確保しておく、③担保を分散する、の3点です。暗号資産は短期間で30〜50%下落することがあるため保守的なLTV設定が長期保有者に適します。
Q. 法人で使う場合、個人と何が違いますか?
法人が活発な市場のある暗号資産を保有すると、決算期末の時価評価で含み益に法人税が課されます(実効約30〜33%)。一方、借入利息を損金算入でき、調達資金を事業用途に使えば損金化できる点はメリットです。ただし借入目的の事業性や貸し手の所在地による論点があり、必ず税理士と設計が必要です。
Q. 担保ローンを使った後の出口はどう設計しますか?
①値上がり時に一部売却して返済、②同一年内の暗号資産の損失と損益通算して売却、③相続・承継のタイミングで移転、の3パターンが基本です。いずれも「いつ・いくらで返済するか」を最初に設計することが前提で、出口のない借入は金利コストが累積するだけです。




