公認会計士・税理士の辻です。「海外移住で税負担を下げたい」というご相談は年々増えています。ただ移住先は税制だけでなく、生活環境・ビザの取りやすさ・事業のしやすさで選ぶべきで、人気の4カ国(シンガポール・ドバイ・マレーシア・香港)はそれぞれ強みが異なります。このガイドでは富裕層・経営者の視点で4カ国を税金で比較し、目的別の選び方と、見落としがちな「日本側の出国税・非居住者課税」まで整理します。
よくある質問
Q. いちばん節税になる移住先はどこですか?
個人所得税だけを見れば所得税ゼロのドバイ(UAE)、キャピタルゲインや相続税まで含めると香港・シンガポールも有力です。ただし事業実態・ビザ・生活コストを含めた総合判断が必要です。
Q. マレーシアは税率が高いのに人気なのはなぜ?
個人所得税の最高税率は高いものの、国外源泉所得が原則非課税で、生活コストが低く、MM2Hビザで長期滞在しやすいためです。
Q. 移住すれば日本の税金は完全になくなりますか?
なりません。出国時の出国税(国外転出時課税)、非居住者でも日本国内源泉所得への課税、相続税の納税義務者判定など、日本側の論点が残ります(後述)。
移住先4カ国の税金比較 早見表
| 国・地域 | 個人所得税 | キャピタルゲイン | 相続・贈与税 | 法人税 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| シンガポール | 累進・最高24% | 非課税 | なし | 17% | アジアの金融ハブ/生活コスト高 |
| ドバイ(UAE) | 0% | 非課税 | なし | 9%(フリーゾーンは条件付0%) | 所得税ゼロ/急成長 |
| マレーシア | 累進・最高30%(国外源泉所得は原則非課税) | 株式は原則非課税 | なし | 24% | 生活コスト低/MM2Hで人気 |
| 香港 | 最高17%(属地主義・国外所得は非課税) | 非課税 | なし(2006年廃止) | 16.5% | 国外所得非課税/金融ハブ |
| (参考)日本 | 最高45%+住民税10% | 約20% | 最高55% | 実効約30% | 全世界所得課税 |
※税制は各国で頻繁に改正されます。上表は概要であり、実際の適用は個別事情・最新の法令によります。
シンガポール|アジアの金融ハブ
個人所得税は累進で最高24%、キャピタルゲインは非課税、相続税・贈与税はありません。法人税は17%。政治・治安が安定しアジアのビジネス拠点として最適ですが、住居を中心に生活コストは世界最高水準です。アジアで事業を展開する経営者や、資産運用の拠点を求める方に向いています。
ドバイ(UAE)|所得税ゼロ
個人所得税が0%で、キャピタルゲイン・相続税・贈与税もありません。2023年6月から法人税9%が導入されましたが(課税所得37.5万AED超)、フリーゾーンでは要件を満たせば0%も可能です。ゴールデンビザなど長期滞在制度が整い、所得税ゼロを最大化したい高所得者・投資家に人気です。日本からの距離や商習慣の違いは考慮点です。
マレーシア|生活コストが低く長期滞在しやすい
個人所得税は累進で最高30%ですが、国外源泉所得は原則非課税です(送金課税の扱いに注意)。株式のキャピタルゲインは原則非課税、相続税・贈与税もありません。法人税は24%。MM2H(マレーシア・マイ・セカンドホーム)ビザがあり、生活コストが低く日本人に人気です。国外所得が中心の方、生活の質・教育・リタイアを重視する方に向いています。
香港|国外所得は非課税(属地主義)
給与所得等の税率は最高17%(標準税率15%)で、香港源泉所得のみに課税する属地主義のため国外所得は非課税。キャピタルゲイン非課税、相続税は2006年に廃止されました。法人(利得)税は16.5%。アジアの金融ハブで、国外所得が中心の方や金融・事業の拠点を求める方に向いています。ビザ制度は時期により変動するため最新確認が必要です。
目的別|あなたはどこを選ぶべきか
所得税をゼロにしたい → ドバイ(UAE)
アジアで事業・資産運用の拠点を持ちたい → シンガポール・香港
生活コストを抑えて長期滞在・家族と暮らしたい → マレーシア
国外所得中心で課税を抑えたい → 香港・マレーシア
いずれも「税制の有利さ」と「生活・事業のしやすさ」はトレードオフです。実際の手取り・資産防衛効果は、下記の日本側の課税まで含めて試算することが欠かせません。
見落とせない「日本側」の課税
移住先の税率だけで判断するのは危険です。日本側には次の論点があります。
- 出国税(国外転出時課税):一定の居住者が出国する際、保有する有価証券等(合計1億円以上)の含み益に課税されます。
- 非居住者課税:非居住者になっても、日本国内源泉所得(国内不動産所得等)には課税されます。
- 相続税・贈与税の納税義務:出国後の期間や国籍・住所により、日本の相続税・贈与税の対象範囲が変わります。
これらの詳細は 海外移住で節税は本当か|出国税と非居住者課税の罠 で解説しています。
まとめ
移住先は「税制 × 生活 × 事業」の総合判断です。所得税ゼロならドバイ、アジア拠点ならシンガポール・香港、生活重視ならマレーシア、が一つの目安になります。ただし日本側の出国税・非居住者課税・相続税の設計を誤ると、期待した節税効果が得られないこともあります。海外移住・国際税務をご検討の方は、実行前にぜひご相談ください。
税理士法人グランサーズ共同代表。監査法人トーマツで上場企業の会計監査に従事後、23歳で独立。2023年に自身の事務所をグランサーズへ統合し共同代表に就任。「資産防衛」と「事業成長」を軸に経営者を支援し、YouTube「社長の資産防衛チャンネル」でも発信しています。





