創業計画書の書き方|審査に通る記入例と数値計画の作り方
公認会計士・税理士の筧です。
創業計画書は「事業への熱意」を伝える書類ではありません。審査官が見ているのは、自己資金の出どころに嘘がないか、売上予測に説明できる根拠があるか、そして毎月の返済がちゃんと利益から出るか。この3点だけです。逆に言えば、この3点さえ数字で整合していれば、文章が多少拙くても通ります。
よくある質問
Q1. 自己資金はいくらあれば審査に通りますか?
「創業資金総額の何割」という決まった基準は公式にはありませんが、実務上は自己資金の厚みが審査の重要な判断材料になります。目安となる比率は制度や時期によって変わるため、最新の公庫案内・専門家への確認が必須です。ただし金額以上に見られるのが「お金の出所」です。毎月コツコツ貯めた通帳履歴があるか、直前に急に振り込まれた不自然な入金でないか、ここは必ずチェックされます。
Q2. 売上予測は根拠がないと落ちますか?
実務上、根拠が示せない売上計画は通りにくいと考えてください。「頑張って月商150万円を目指します」という書き方は根拠として認められません。「客単価800円×1日60人×稼働25日=120万円」のように、単価と数量に分解して初めて根拠になります。この分解ができない売上計画は、審査官から見ると「その場の思いつき」に見えてしまいます。
Q3. 創業計画書と事業計画書は何が違いますか?
創業計画書は主に日本政策金融公庫の融資申込書類として使う定型フォーマットで、項目が決まっています。事業計画書はより自由形式で、補助金申請や取引先への説明など用途が広いものです。創業融資が目的なら、まずは公庫所定の創業計画書の様式に沿って作るのが近道です。
なぜ「熱意だけの創業計画書」が落ちるのか
毎月の創業融資に関する相談で必ず出てくるのが「思いは伝わるが、数字が薄い計画書」です。事業への情熱を語る文章量は多いのに、売上の根拠となる計算式がどこにもない。原価率も勘で書いている。こういう計画書は、審査官からすると「この人は自分の商売の数字を分解して考える習慣がない」というシグナルになってしまいます。
融資審査は性格診断ではありません。数字の裏に「この人はちゃんと商売を数字で管理できる人だ」という信頼を積み上げる作業です。だからこそ、各項目は「書く」というより「計算して埋める」という姿勢で臨むべきです。
項目別・書き方のコツ
日本政策金融公庫の創業計画書は概ね次の8項目で構成されています(様式は時期により変更される場合があるため最新版を確認してください)。
1. 創業の動機
「なぜこの事業を、なぜ今、なぜ自分がやるのか」を簡潔に。長い自分史は不要です。前職での実務経験と、今回の事業がどうつながるかを2〜3行で書ければ十分です。
2. 経営者の略歴等
勤務経験・保有資格を書きますが、ここで大事なのは「その経験が今回の事業の売上見込みの根拠になっているか」です。例えば飲食店なら「店長として月商〇〇万円の店舗を運営した経験がある」と書けば、後述の売上計画の説得力が一段上がります。
3. 取扱商品・サービス
商品構成と大まかな価格帯、セールスポイントを書きます。ここも「安くて美味しい」のような抽象語ではなく、「客単価◯円のランチ×客単価◯円のディナー」のように、後の数値計画に接続できる書き方をしておくと一貫性が出ます。
4. 取引先・取引関係等
仕入先・販売先・回収サイト・支払サイトを書きます。個人事業の飲食店などで取引先が少ない場合も、仕入業者名や決済条件(現金か掛けか)を具体的に書くことで、資金繰りの実態が伝わります。
5. 従業員
雇用予定人数と時期。人件費は後の利益計画に直結するため、ここで書いた人数と月々の収支計画の人件費が一致しているか、必ず突き合わせます。
6. お借入の状況
事業主個人の既存借入(住宅ローン、自動車ローン、カードローンなど)を正直に書きます。ここを隠す、あるいは記載漏れがあると信用情報の照会と食い違い、その時点で信頼を失います。
7. 必要な資金と調達方法
設備資金と運転資金を分けて積み上げます。見積書・カタログ・不動産契約書など裏付け資料がある金額と、そうでない「だいたいこのくらい」の金額が混在していると、審査官はそこを質問してきます。事前に見積を取っておくことが結果的に近道です。
8. 事業の見通し(月平均)
創業当初と軌道に乗った後(概ね1年後)の2時点で、売上・原価・経費・利益を書きます。ここが最も重要な項目で、次章で詳しく扱います。
数値計画の作り込み方:売上・利益・返済
売上計画は「単価×数量×稼働日」に分解する
飲食店を例にした記入イメージです(あくまでシミュレーション例であり、実際の事業ごとに数値は異なります)。
| 項目 | 創業当初 | 軌道後(1年目) |
|—|—|—|
| 客単価 | 900円 | 1,000円 |
| 1日の客数 | 40人 | 55人 |
| 月間稼働日 | 25日 | 25日 |
| 月商 | 90万円 | 137.5万円 |
このように分解しておくと、審査官から「客数の根拠は?」と聞かれたときに「席数15席、回転率2.7回/日」のようにさらに一段深く説明できます。ここまで積み上げられる計画書は、実務経験に裏打ちされていると評価されやすくなります。
利益計画は原価率と固定費を分けて書く
| 項目 | 創業当初(月) | 軌道後(月) |
|—|—|—|
| 売上 | 90万円 | 137.5万円 |
| 原価(原価率30%想定) | 27万円 | 41.3万円 |
| 人件費 | 20万円 | 25万円 |
| 家賃 | 15万円 | 15万円 |
| 水道光熱費・その他経費 | 10万円 | 12万円 |
| 借入返済(元金) | 8万円 | 8万円 |
| 利益(税引前・返済後) | 10万円 | 36.2万円 |
原価率は業種の一般的な水準(飲食は30%前後が目安とされることが多い)を使いつつ、自分の仕入予定価格から逆算した数字を併記すると説得力が増します。「業界平均だから」で終わらせず、自分の店の仕入条件で計算し直す一手間が審査官への信頼につながります。
返済計画は「利益から無理なく出るか」を見せる
融資額と返済期間から月々の元金返済額を出し、それが月次利益計画の中でどのポジションにあるかを明示します。上の例では創業当初の返済後利益が10万円しかありません。ここが赤字、あるいはゼロに近いと「創業当初の数か月をどう乗り切るか」を審査官は必ず確認してきます。自己資金の一部を運転資金として当初数か月分確保しておく、という説明ができるかどうかが分かれ目になります。
銀行・公庫対応で見られている本当のポイント
創業計画書を出したあとの面談で、実際によく質問されるのはこの3点です。
- 自己資金の出所:通帳の入金履歴を数か月分遡って聞かれます。急に大きな金額が入っている場合は、贈与なのか借入なのか説明を求められます。
- 売上根拠の再現性:「なぜその客数が見込めるのか」を、勤務経験や立地調査など、計画書に書いていない裏付けまで含めて聞かれます。
- 資金使途の妥当性:見積書と申請金額に大きな乖離があると、そこだけ厳しく確認されます。設備資金は必ず見積書を取ってから金額を確定させてください。
これらはすべて「この人にお金を貸して、本当に約定通り返済されるか」という一点に収斂します。制度融資の細かい要件を満たすことより、この信頼を積み上げる方が結果的に近道です。個別の数値の妥当性や、融資制度の適用可否については、顧問税理士や当法人にご相談ください。
まとめ:まず一つだけやるとしたら
創業計画書を書く前に、まず「月次の資金繰り表(創業から1年分)」を先に作ってください。売上・原価・固定費・借入返済を月ごとに並べると、創業計画書の「事業の見通し」欄は自然と埋まりますし、資金がショートしそうな月も事前に見えてきます。計画書はその資金繰り表の要約だと考えると、書く順番を間違えずに済みます。
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税理士法人グランサーズ所属の公認会計士・税理士、BackofficeForce株式会社 代表取締役CEO。中小企業オーナーの税務・資金繰り・銀行対応から経営判断までを一体で支援。YouTube「社長の資産防衛チャンネル」で情報発信を行う。
税理士法人グランサーズ所属の公認会計士・税理士、BackofficeForce株式会社 代表取締役CEO。数字の裏にある経営判断を重視し、中小企業オーナーの税務・資金繰り・銀行対応を支援。YouTube「社長の資産防衛チャンネル」で、経営者に向けて税務とお金の知識を発信しています。







