渡切りとは?経費にならず給与認定されるリスクを税理士が解説
公認会計士・税理士の筧です。
「渡切り」は、使い道の精算をせずに一定額をポンと渡すお金のことです。結論から言うと、渡切りは税務調査で「給与」と認定され、会社側は源泉徴収漏れ、受け取った役員・従業員は所得税の追徴という二重のダメージを受けやすい支出です。渡切りが習慣化している会社ほど、税務調査で痛い目に遭う確率が上がります。
よくある質問
Q1. 渡切りとは具体的にどういうお金ですか?
出張のたびに「1回5万円」、接待のたびに「月10万円」のように、実際にいくら使ったかの領収書や報告を求めずに、決まった金額を渡す支出のことです。旅費や交際費、会議費の名目で行われることが多いです。
Q2. 渡切りは経費として認められないのですか?
使途の実態が確認できない渡切りは、税務調査で「実質は役員・従業員個人への給与」と認定されるリスクが高いです。給与と認定されると、交際費や旅費としての損金算入は否認され、代わりに給与としての源泉徴収義務が発生します。会社にとっても個人にとっても不利な結果になります。
Q3. 出張の日当(渡切り)はすべてアウトですか?
そうとは限りません。出張旅費規程を整備し、金額が社会通念上相当な範囲であれば、日当を非課税の実費弁償として扱える余地があります。問題になるのは、規程がない、金額が突出して高い、精算の記録が一切ないといった「野放し」の渡切りです。
現場で起きていること:なぜ渡切りが税務調査で狙われるか
毎月の面談で必ずと言っていいほど話題になるのが、この渡切りの扱いです。特に多いのが以下の3パターンです。
- 社長が「交際費として月○万円」を自分の口座に振り込ませ、領収書を出さない
- 出張のたびに「日当」として現金を渡すが、出張報告書も精算記録もない
- 現場責任者に「接待用」として渡切りで小口現金を渡し続けている
税務調査官はこの「精算していないお金」に高い確率で目をつけます。理由はシンプルで、精算していない=使途を証明できない=会社の経費ではなく個人の所得の可能性がある、という論理構造になるからです。しかも渡切りは金額が固定で継続的に出ているケースが多く、帳簿上も見つけやすい支出です。
渡切りが「給与」に化けるメカニズム
税務上、経費として認められるためには「業務のために使った」という実態の証明が必要です。渡切りにはこの証明がありません。
そのため税務調査では次のような認定が行われることがあります。
1. 渡切りの支出は業務上の必要性を証明できない
2. 実態は役員・従業員が自由に使えるお金である
3. これは経済的利益の供与、つまり給与(役員賞与・給与手当)である
この認定が確定すると、影響は次の3方向に広がります。
- 会社側:交際費・旅費としての損金算入が否認される。加えて給与として源泉徴収すべきだったのに徴収していなかったとして、源泉所得税の追徴と不納付加算税が課される(税率は最新税制・個別事情で要確認)
- 役員・従業員側:受け取ったお金が給与所得として課税される。本人が確定申告していなければ、個人にも追徴課税が及ぶ
- 役員賞与のケース:定期同額給与に該当しない臨時の賞与とみなされると、法人税法上、原則として全額が損金不算入になる
つまり会社は経費を否認された上に源泉徴収義務違反まで問われ、役員は自分の懐にも追徴が来るという、踏んだり蹴ったりの結果になります。
役員への渡切り交際費は特にリスクが高い
中小企業でよくあるのが、社長個人への「渡切り交際費」です。これは税務調査で最も狙われやすいパターンの一つと言えます。
理由は、役員への支出は形式上いくらでも「業務のため」と言い張れてしまうため、税務署が厳しくチェックする対象になっているからです。領収書もなく、相手先も接待内容も記録されていない渡切り交際費は、役員賞与として否認される可能性が非常に高いです。
役員賞与として否認されると、法人税では損金不算入(会社の税負担が増える)、個人では給与課税(役員本人の所得税・住民税が増える)というダブルパンチになりやすいです。これは会社の資金繰りにも直接響きます。追徴税額は一括での納付を求められることが多く、想定していなかった資金流出になるためです。
出張日当の渡切りは「規程」の有無で天と地の差
すべての渡切りが否認されるわけではありません。出張旅費に関しては、以下の条件を満たせば「日当」として非課税の実費弁償と扱える余地があります。
- 出張旅費規程が整備されている
- 役職に応じた金額設定など、合理的な基準がある
- 金額が社会通念上相当な範囲に収まっている(この「相当な範囲」の判断は個別事情によるため要確認)
- 出張の事実(行き先・目的・期間)を客観的に確認できる記録がある
逆に言うと、規程もなく、行き先も目的も記録せず、金額だけが渡切りで支払われている場合は、日当ではなくただの給与とみなされる可能性が高くなります。出張旅費規程は一度作れば済むものではなく、金額の妥当性を定期的に見直す必要がある点にも注意が必要です。
銀行対応・資金繰りへの影響を軽視しない
渡切りが税務調査で否認されると、追徴税額・加算税・延滞税がまとめて発生することがあります。これは想定外の資金流出であると同時に、決算書の信頼性にも傷をつけます。
金融機関は税務調査で多額の否認があった会社に対して、内部管理体制そのものを疑う傾向があります。「経費の精算ルールが機能していない会社」というレッテルは、融資審査における定性評価を下げる要因になり得ます。特に事業承継や追加融資を検討している段階でこの手の指摘を受けると、交渉の材料を一つ失うことになりかねません。
経営判断:渡切りをやめて精算主義に切り替える
渡切りのリスクを避けるための基本的な考え方は、「渡してから使う」のではなく「使ってから精算する」に運用を変えることです。
具体的には次の3点から着手するのが現実的です。
1. 交際費・会議費は必ず領収書と使途(相手先・人数・目的)を記録してから精算する。渡切りではなく仮払い精算に変更する
2. 出張旅費規程を整備し、日当の金額を役職別に定め、出張報告書とセットで運用する
3. すでに渡切りで運用している支出は、過去分も含めて一度棚卸しし、給与認定リスクがどの程度あるか顧問税理士とともに点検する
特に3つ目は後回しにされがちですが、税務調査で指摘されるのは「今年の渡切り」ではなく「過去数年分の渡切りの積み重ね」であることがほとんどです。早めの棚卸しが追徴リスクの低減につながります。
まとめ:まず一つだけやるとしたら
今日からできる一手は、社内で「渡切りで支払われているお金」をすべて洗い出すことです。交際費、旅費、会議費の科目を確認し、領収書や報告書とセットになっていない支出があれば、それが税務調査で最初に狙われる箇所です。棚卸しの結果、規程整備や精算ルールの見直しが必要であれば、次の決算までに手を打っておくことをお勧めします。個別の判断が必要なケースは、顧問税理士や当法人にご相談ください。
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