役員報酬の決め方|法人税と社会保険料を最適化する考え方
公認会計士・税理士の筧です。
役員報酬は「多く取れば個人の税負担と社会保険料が増え、少なく取れば法人税が増える」というシーソーの関係にあります。正解は一つの数字ではなく、会社の利益計画・個人の資金需要・将来の退職金や融資への影響まで含めて決めるものです。この記事では、その判断軸を具体的に整理します。
よくある質問
Q1. 役員報酬は期中に自由に変更できますか?
原則できません。法人税の計算上、役員報酬を経費(損金)にするには「定期同額給与」であることが条件で、事業年度が始まって一定期間内に決めた金額を、原則としてその期は変え続ける必要があります。期中に業績が良いからと増額すると、増額分は損金にならず、法人税の負担が増える可能性があります。
Q2. 役員報酬を上げると社会保険料はどれくらい増えますか?
役員報酬(標準報酬月額)が上がると、健康保険料・厚生年金保険料は会社負担分・個人負担分の両方が増えます。特に厚生年金保険料は一定の標準報酬月額を超えると上限に達しますが、そこに至るまでは報酬に比例して増え続けるため、法人税の節税効果より社会保険料の増加が上回るケースも珍しくありません。
Q3. 役員報酬を低く抑えて会社に利益を残す方が得ですか?
一概には言えません。法人に利益を残せば法人税はかかりますが、社会保険料はかかりません。一方で役員報酬を下げすぎると、個人の可処分所得が減り、住宅ローンなどの与信審査で不利になることがあります。会社と個人、両方の資金繰りを合わせて考える必要があります。
なぜ役員報酬の決め方が「一番大きな税務判断」なのか
毎年の決算前面談で、必ずと言っていいほど議題に上がるのが役員報酬の見直しです。理由は単純で、役員報酬は法人税・所得税・住民税・社会保険料のすべてに影響する、数少ない「一つの数字で全体が動く」意思決定だからです。
しかも一度決めたら、原則として期中は変更できません。決算が終わってから「もっと下げておけばよかった」と気づいても、その事業年度はもう手が打てないケースがほとんどです。だからこそ、期首の決定が一年間の税負担を左右します。
定期同額給与の原則と、期中変更が損金不算入になる仕組み
役員報酬を法人の経費として認めてもらうには、次のいずれかの形を取る必要があります。
- 定期同額給与:毎月同額を支払う、最も一般的な形
- 事前確定届出給与:あらかじめ税務署に届け出た時期・金額で賞与的に支払う形
- 業績連動給与:一定の上場企業向けの制度で、中小企業ではほぼ使いません
定期同額給与は、事業年度開始から一定期間内に決定した金額を、その期はずっと変えないことが条件です。期中に「今期は利益が出そうだから役員報酬を上げよう」と増額すると、増額した分は損金として認められません。逆に「資金繰りが厳しいから下げよう」と減額した場合も、原則として減額前の金額との差額部分が損金不算入になることがあります(経営状況の著しい悪化など、認められる例外はあります)。
つまり、役員報酬は「期首に一年分の利益を見通して決める」ものであり、行き当たりばったりでは税務上のリスクを抱えることになります。
法人税と社会保険料の「シーソー」をどう見るか
役員報酬を増やすと何が起きるか、負担の動き方を整理します。
| 役員報酬を増やすと | 役員報酬を減らすと |
|—|—|
| 法人の利益が減り、法人税は減る | 法人の利益が増え、法人税は増える |
| 個人の所得税・住民税は増える | 個人の所得税・住民税は減る |
| 社会保険料(会社負担・個人負担)は増える | 社会保険料は減る |
| 個人の可処分所得・与信は上がりやすい | 会社に利益(内部留保)が残る |
ここで見落とされがちなのが社会保険料です。所得税は累進税率なので高額になるほど負担率が上がりますが、社会保険料も報酬額に応じて増え、しかも会社と個人の双方が負担します。「役員報酬を上げて所得分散したつもりが、社会保険料の増加でトータルの手取りはさほど変わらなかった」という相談は実際によくあります。
一方で、法人に利益を残しすぎると、法人税に加えて将来の株価上昇による相続・事業承継時の負担増にもつながります。役員報酬を抑えて内部留保を厚くする戦略は、出口(承継・売却)まで見据えて判断する必要があります。
具体的な決め方の手順
1. 期首に、今期の利益計画を作る
売上・経費の見込みから、税引前利益がどの程度になりそうかを試算します。
2. 会社に残したい利益水準を決める
借入の返済原資、設備投資、納税資金として、法人にいくら利益を残す必要があるかを先に決めます。
3. 個人が必要とする生活費・資金需要を洗い出す
住宅ローンの返済、教育費、生命保険料など、個人側で必要な手取り額を確認します。
4. 法人税・所得税・社会保険料を通しで試算する
いくつかの報酬額パターンで、法人税額と個人の手取り額(税・社会保険料控除後)をシミュレーションし、トータルの手残りを比較します。
5. 事業年度開始から一定期間内に決定・届出する
定期同額給与の改定期限、事前確定届出給与を使う場合の届出期限を必ず守ります。この期限を過ぎると、その期の見直しはできません。
このシミュレーションを毎年やっている経営者と、なんとなく前年踏襲で決めている経営者とでは、数年単位で見た時の手残りに差が出てきます。
銀行対応・経営判断への翻訳
役員報酬の決め方は、税務だけでなく銀行対応にも直結します。
- 役員報酬を極端に下げると、個人の与信(住宅ローン、個人での借入)が組みにくくなります。特にオーナー社長は「会社の業績=個人の信用力」と見られがちですが、実際の与信審査では役員報酬の水準そのものが個人所得として審査されます。
- 法人の利益を出しすぎると、法人税の負担は増えますが、金融機関から見た決算内容(自己資本比率、利益水準)は良化し、融資審査では有利に働くことがあります。
- 役員報酬を下げて会社に利益を残す判断をする場合、その分の資金を将来の退職金や設備投資、納税資金としてどう位置づけるかを、期首の段階で決めておく必要があります。
役員報酬は「今期の税金」だけでなく、「数年後の融資枠」「将来の退職金」「事業承継時の株価」にまで影響する、経営の根幹に関わる意思決定です。毎年の決算対策として単年度だけで判断せず、3〜5年程度の見通しの中で決めることをお勧めします。
まとめ:まず一つだけやるとしたら
決算期末が来る前に、今期の利益見込みを試算し、「役員報酬をこのままにした場合」と「増減させた場合」で、法人税・所得税・社会保険料を通した手残りの差を一度シミュレーションしてみてください。数字にしてみて初めて、シーソーがどちらに傾いているかが見えてきます。
💡 監修:本記事は国税庁出身の税理士・公認会計士が監修しています。
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*公認会計士・税理士 筧智家至 / 税理士法人グランサーズ*







