社会保険料を「高い固定費」と感じている経営者は多いはずです。しかし社会保険は、経営者自身が働けなくなったときの最大の公的セーフティネットでもあります。法人の社長が使える「傷病手当金」と「障害年金」、そして見落とされがちな役員報酬設計との関係を、税理士の視点で解説します。
傷病手当金は、法人の社長も受け取れる
傷病手当金は会社員だけの制度と思われがちですが、社会保険に加入している法人社長も受給できます。病気やケガで働けなくなったとき、標準報酬月額をもとに日給のおよそ2/3が、最長1年6ヶ月、非課税で支給されます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 支給額 | 標準報酬日額の約2/3(例:標準報酬月額60万円なら月約40万円) |
| 支給期間 | 支給開始日から通算1年6ヶ月(2022年改正で復職期間は除外=通算化) |
| 待期期間 | 連続3日間(土日・有給も可)、4日目から支給 |
| 税金 | 所得税・住民税は非課税(ただし休職中も社会保険料の支払いは継続) |
1年6ヶ月を超えたら「障害年金」へ
回復せず就労困難が続く場合、傷病手当金の後は障害年金に移行できます。等級や家族構成によっては年間275万円超・無期限の受給になることもあります。誤解されがちですが、うつ病・統合失調症が受給者の最多で、がんの副作用や術後後遺症も対象になり得ます。ただし受給には年金保険料の納付期間が加入期間の3分の2以上必要で、未納が3分の1を超えると受給できません。
落とし穴:役員報酬をもらいながらは受給できない
見落とされがちな注意点です。役員報酬の支払いが続く間、傷病手当金は支給停止になります。就労不能中に手当金を受けるには、株主総会決議+議事録を整えたうえで役員報酬を減額し、差額分を受給する設計が必要です。ここを知らずに「報酬も手当金も両取り」を狙うと、後から支給停止・返還を求められます。
個人事業主には傷病手当金がない=法人化のリスクヘッジ効果
個人事業主には傷病手当金の制度がありません。就業不能に備えるには小規模企業共済や所得補償保険で自前の備えが必要です。裏を返せば、法人化して社会保険に加入することは、経営者本人の就業不能リスクへの公的保障を得るという側面があります。社会保険料は「コスト」であると同時に「保障」でもあるのです。
役員報酬の設定は、節税だけでなく「保障額」も左右する
ここが税理士の視点です。傷病手当金も障害厚生年金も、受給額は標準報酬月額(=役員報酬の水準)に連動します。目先の節税だけを狙って役員報酬を低く設定しすぎると、いざというときの手当金・年金も低くなります。役員報酬は、法人税・所得税・社会保険料・そして万一の保障額までを含めて全体最適で決めるべきものです。民間保険は「公的給付で足りない部分だけ」を補う設計が最適です。
まとめ
法人の社長は、傷病手当金(最長1年6ヶ月・日給の約2/3・非課税)と障害年金という公的保障を持っています。ただし役員報酬との調整(支給停止・議事録)に落とし穴があり、受給額は役員報酬の水準に連動します。税務・社会保険・経営者保障を一体で設計することが、社会保険料を「ただの固定費」で終わらせないための鍵です。
中小企業オーナーの税務・資金繰り・資産防衛を専門とし、年間100社以上のオーナーと毎月面談。数字の裏にある経営判断を支援。
よくある質問
Q. 法人の社長でも傷病手当金はもらえますか?
はい。社会保険に加入している法人の社長は、病気やケガで働けなくなった場合に傷病手当金を受給できます。標準報酬日額の約2/3が最長1年6ヶ月、非課税で支給されます(例:標準報酬月額60万円なら月約40万円)。個人事業主にはこの制度がありません。
Q. 傷病手当金はいつから、いつまでもらえますか?
連続3日間の待期期間(土日・有給も可)の後、4日目から支給されます。支給期間は支給開始日から通算1年6ヶ月で、2022年改正により復職していた期間はカウントされず通算されるようになりました。所得税・住民税は非課税ですが、休職中も社会保険料の支払いは続きます。
Q. 役員報酬をもらいながら傷病手当金も受給できますか?
できません。役員報酬の支払いが続く間、傷病手当金は支給停止になります。受給するには株主総会決議と議事録を整えたうえで役員報酬を減額し、差額を受給する設計が必要です。両取りを狙うと後から支給停止・返還を求められます。
Q. 障害年金はどんな場合に、いくらもらえますか?
傷病手当金の期間(1年6ヶ月)後も就労困難が続く場合に移行でき、等級・家族構成によっては年間275万円超・無期限になることもあります。うつ病・統合失調症が受給者の最多で、がんの副作用等も対象になり得ます。ただし年金保険料の納付期間が加入期間の3分の2以上必要です。
Q. 役員報酬の金額は保障にも影響しますか?
します。傷病手当金も障害厚生年金も受給額は標準報酬月額(役員報酬の水準)に連動します。節税だけを狙って役員報酬を低くしすぎると、いざというときの手当金・年金も低くなります。役員報酬は税負担と保障の両面から全体最適で決めるべきです。




