経営セーフティ共済と小規模企業共済の違いと使い分け
公認会計士・税理士の筧です。
結論から言うと、経営セーフティ共済と小規模企業共済は目的も税務上の扱いも別物なので、比較して「どちらか一つ」を選ぶ制度ではありません。法人経営者は基本的に両方に加入すべきですし、個人事業主は小規模企業共済を軸にして、資金繰りに余裕があれば経営セーフティ共済を上乗せする、という順番で考えるのが実務的です。
よくある質問
Q. 節税効果が高いのはどちらですか?
単純比較はできません。経営セーフティ共済は「法人・個人事業の損金・必要経費」として利益を圧縮する制度で、掛金は月20万円・年間240万円・累計800万円まで積み立てられます。小規模企業共済は「経営者個人の所得控除」で、事業の利益とは別に、経営者本人の総所得から差し引けます。掛金上限は月7万円と小さいですが、控除できる範囲(個人の全所得)が広いのが特徴です。節税額は掛金×税率で決まるため、どちらが有利かは会社の利益水準と経営者個人の所得水準の両方を見ないと判断できません。
Q. 両方に加入することはできますか?
できます。むしろそれが基本戦略です。経営セーフティ共済は法人(または個人事業主の事業)が加入する制度、小規模企業共済は経営者個人が加入する制度なので、加入主体が違います。法人の決算対策として経営セーフティ共済を使いながら、社長個人の退職金準備として小規模企業共済に入る、という組み合わせは制度上まったく矛盾しません。
Q. 個人事業主はどちらを優先すべきですか?
小規模企業共済を軸にすることをおすすめしています。理由は、小規模企業共済の掛金は事業の利益が出ていなくても経営者個人の所得(給与所得や他の所得を含む)から控除できるうえ、廃業・引退時の受け取りが退職所得や公的年金等として税制優遇されるからです。経営セーフティ共済は掛金相当のキャッシュが会社(事業)の外に出ていき、解約時の出口設計も必要になるため、資金繰りに余力がある個人事業主向けの上乗せ策と位置づけるのが現実的です。
そもそも「何のための制度か」が違う
毎月の決算対策の面談で、この2つの制度を混同して相談されることが少なくありません。「節税になる共済」というくくりで一緒に語られがちですが、制度の目的がまったく違います。
- 経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済):取引先が倒産した際に、無担保・無保証人で資金を借り入れられるようにするための制度です。節税はあくまで副産物で、本来の目的は連鎖倒産の防止です。
- 小規模企業共済:個人事業主や小規模企業の経営者自身のための、退職金の積立制度です。会社員でいう退職金や厚生年金に相当するものを、経営者本人が自分で用意する仕組みです。
この「誰のための制度か」の違いが、この先の税務上の扱い・掛金上限・出口の違いすべての根っこになっています。
税務上の扱い:損金算入と所得控除は別物
経営セーフティ共済の掛金は、法人なら損金、個人事業主なら必要経費として、事業の利益から差し引きます。つまり事業が黒字でないと節税効果が出ません。赤字の期に掛金を払っても、その期の税負担軽減効果はほぼありません(繰越欠損金が増えるだけです)。
一方、小規模企業共済の掛金は「小規模企業等掛金控除」として、経営者個人の総所得金額から差し引かれます。事業所得だけでなく、給与所得や不動産所得など個人が持つ他の所得とも合算して控除できるため、事業が赤字でも、経営者個人に他の所得があれば節税効果を発揮します。この「事業の損益に依存しない」点は、個人事業主にとって小規模企業共済を軸にすべき大きな理由です。
掛金の上限と資金拘束の違い
| | 経営セーフティ共済 | 小規模企業共済 |
|—|—|—|
| 加入主体 | 法人・個人事業主(事業) | 経営者個人 |
| 月額 | 5,000円〜20万円 | 1,000円〜7万円 |
| 上限 | 累計800万円 | 掛金総額の上限なし(月7万円が上限) |
| 節税の種類 | 損金・必要経費算入 | 所得控除 |
経営セーフティ共済は上限が高い分、資金拘束も大きくなります。累計800万円まで積み立てると、それだけのキャッシュが会社の外に固定されるということです。資金繰りに余裕がない会社がこれを目一杯使うと、手元資金を圧迫して銀行への返済原資や運転資金に支障が出るケースを何度も見てきました。掛金は「節税額」ではなく「先に出ていく現金」だという感覚を持つ必要があります。
小規模企業共済は上限が低い分、資金拘束は軽めです。ただし掛金は基本的に任意解約すると元本割れするタイミングがあるため、こちらも「いつでも引き出せる預金」とは考えない方がよいです。
出口(受取時の課税)がまったく違う
ここが両制度でもっとも重要な違いです。
経営セーフティ共済の解約手当金は、全額が雑収入としてその期の利益に加算されます。加入から40ヶ月以上経っていれば解約返戻率は最大95%程度になりますが、それは「税引前の戻り」であって、戻ってきた金額にはそのまま法人税・所得税がかかります。累計800万円積み立てて解約すれば、返戻金がまとまってその期の利益になり、他に大きな損金がなければ相応の税負担が発生します。だからこそ、退職金の支払い期や大型設備投資、赤字転落が見込まれる期に解約時期を合わせる「出口設計」が欠かせません。このあたりの具体的な設計方法は、別記事「経営セーフティ共済は節税ではない?出口設計と改正の落とし穴」で詳しく解説しています。
小規模企業共済の受取金は、受け取り方によって退職所得または公的年金等の雑所得として扱われ、給与や事業所得に比べて税負担が軽くなるよう設計されています。一括受取なら退職所得控除、分割受取なら公的年金等控除が使えるため、経営セーフティ共済のように「全額がそのまま利益に乗る」ような課税の重さにはなりにくい構造です。この「出口で優遇される」設計こそ、小規模企業共済が経営者個人の退職金代わりとして選ばれる理由です。詳しい仕組みは小規模企業共済とは?経営者が入るべき理由と出口の注意点をご覧ください。
加入資格と「法人は両方、個人事業主は小規模を軸に」の理由
経営セーフティ共済は法人でも個人事業主(の事業)でも加入できます。一方、小規模企業共済は経営者個人が加入する制度なので、法人の代表者も個人事業主も加入対象です。つまり法人経営者は「会社としての経営セーフティ共済」と「個人としての小規模企業共済」を両方使えますし、個人事業主も両方使えます。
それでも「個人事業主は小規模を軸に」とお伝えしているのは、次の理由からです。
- 小規模企業共済は事業の利益に関係なく節税効果が出るため、利益が不安定な個人事業主でも設計しやすい
- 出口が退職所得・公的年金等として優遇されるため、経営セーフティ共済のような「解約時期の作り込み」が不要に近い
- 経営セーフティ共済は本来「取引先倒産への備え」が目的であり、取引先の数や与信リスクが限定的な個人事業主では、優先度が相対的に下がる
逆に法人は、取引先の数が多く連鎖倒産のリスクも大きい一方、退職金の損金枠を作って利益を調整する場面(社長交代・役員退職金の支給など)も頻繁に出てくるため、両方の制度をフル活用する経営者がほとんどです。
まとめ:まず一つだけやるとしたら
まず自分の立場(法人か個人事業主か)と、今の資金繰り体力を確認してください。法人経営者で資金繰りに余裕があるなら、小規模企業共済への加入(月7万円の枠)を先に埋めたうえで、経営セーフティ共済は出口設計とセットで検討する。個人事業主なら、まず小規模企業共済に加入し、余力ができてから経営セーフティ共済を検討する。この順番を間違えなければ、両制度は競合するものではなく、補完し合う節税・資金準備の両輪になります。
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税理士法人グランサーズ所属の公認会計士・税理士、BackofficeForce株式会社 代表取締役CEO。中小企業オーナーの税務・資金繰り・銀行対応から経営判断までを一体で支援。YouTube「社長の資産防衛チャンネル」で情報発信を行う。
税理士法人グランサーズ所属の公認会計士・税理士、BackofficeForce株式会社 代表取締役CEO。数字の裏にある経営判断を重視し、中小企業オーナーの税務・資金繰り・銀行対応を支援。YouTube「社長の資産防衛チャンネル」で、経営者に向けて税務とお金の知識を発信しています。







