電子帳簿保存法、中小企業が最低限やるべきことは「電子取引データを紙に印刷して終わらせないこと」
公認会計士・税理士の筧です。
電子帳簿保存法と聞くと「うちはスキャナ保存もクラウド会計も無理」と身構える社長が多いのですが、中小企業が最低限やるべきことは実はシンプルです。メールやサイトでもらった請求書・領収書などの電子データを、紙に印刷して保存するだけで済ませない。ここさえ押さえれば、罰則リスクの大部分は避けられます。
よくある質問
Q1. 紙の請求書はこれまで通り紙で保存していいですか?
はい。もともと紙でもらった書類を紙で保存するのは問題ありません。電帳法で対応が必須になったのは、最初から電子データでやり取りした取引(電子取引)の保存方法だけです。
Q2. 対応しないとどうなりますか?
青色申告の承認取消しの対象になり得るほか、税務調査で経費や仕入税額控除が否認されるリスクがあります。実際には即座に承認取消しになるケースは多くありませんが、「保存していない」という事実自体が調査官の心証を悪くし、他の指摘にも波及しやすくなります。
Q3. 小さい会社でも本格的なシステム導入が必要ですか?
必須ではありません。売上規模などの要件を満たせば検索機能を省略できる猶予的な扱いもありますし、フォルダ分けとファイル名ルール、簡単な事務処理規程だけで最低限の要件を満たすことも可能です。まずは自社の売上規模と要件を確認することが先決です。
現場で起きていること
毎月の面談で必ずと言っていいほど話題に上がるのが、「請求書をPDFでもらったら、結局プリントアウトしてファイリングしている」という運用です。これは以前は認められていましたが、電子取引データについては原則としてデータのまま保存することが求められるようになっています。
紙に印刷して満足してしまう理由は明確で、「今まで通りのファイリング作業に慣れている」「クラウドストレージの整理が面倒」の二択です。しかし調査の現場では、電子でもらった請求書が紙のファイルにしか綴じられていない状態は、それだけで「保存要件を満たしていない」と指摘される可能性があります。
何をどこまで対応すればいいか
電帳法は大きく3つの区分に分かれますが、中小企業が最低限意識すべきは1つだけです。
- 電子帳簿等保存:会計ソフトのデータをそのまま保存する制度(任意)
- スキャナ保存:紙の書類をスキャンしてデータ保存する制度(任意)
- 電子取引データ保存:メール添付・EDI・クレジットカード明細・ECサイトの領収書など、最初から電子でやり取りしたデータの保存(義務)
任意の2つは「やらなくても紙の運用を続けられる」ものです。一方、電子取引データ保存だけは対応必須です。ここを混同して「電帳法対応=全部システム化」と身構えてしまう社長が多いのですが、優先順位を間違えると無駄な投資になります。
最低限やるべき3つのこと
1. 電子データで受け取った取引をリストアップする
請求書、領収書、見積書、契約書のうち、メール添付・PDFダウンロード・クレジットカード利用明細など、紙で受け取っていないものを洗い出します。
2. 保存場所とファイル名のルールを決める
「日付_取引先名_金額」のようなファイル名規則を決め、クラウドストレージや社内サーバーの決まったフォルダに保存するだけで、検索要件の多くは満たせます。索引簿(Excel等の一覧表)を作る方法でも対応可能です。
3. 改ざん防止(真実性)の担保方法を決める
タイムスタンプ付与システムを導入するか、それが難しい場合は「訂正・削除の履歴が残るシステムを使う」か、国税庁が公開しているひな形をもとに事務処理規程を作成して運用する方法があります。多くの中小企業にとって現実的なのは、コストのかからない事務処理規程での対応です。
なお、検索要件については、売上規模が一定以下の事業者は税務調査時にデータをすぐ出せる状態であれば検索機能自体が不要になる取り扱いもあります。自社が該当するかどうかは、顧問税理士と一緒に最新の基準で確認しておくべきところです。
税務調査でどう見られるか
電帳法対応の有無は、税務調査で「この会社は経理体制がどの程度整っているか」を測る一つの指標になっています。電子取引データの保存が抜けていること自体で即座に重加算税、とはなりませんが、他の論点(売上計上漏れや経費の私的流用など)を調査する際に、「保存体制がずさんな会社」という前提で細かく見られやすくなるのは実感として否めません。
逆に言えば、電子取引データをきちんとルールに沿って保存できている会社は、それだけで調査官の心証を良くする材料になります。守りの対応ではありますが、他の税務リスクを軽減する副次効果があると考えてください。
資金繰り・銀行対応への影響
電帳法対応は直接的に資金繰りを改善する制度ではありません。ただし、経理のデータ化が進むことで、月次試算表の作成スピードが上がり、銀行に提出する資料の精度とタイミングが早くなるという効果は現場でよく見られます。
融資審査では、試算表の提出が早い会社ほど「経理体制がしっかりしている」と評価される傾向があります。電帳法対応をきっかけに請求書・領収書の電子化を進めることは、単なる法対応にとどまらず、月次決算の早期化という経営判断上のメリットにもつながります。
経営判断としてどこまで投資すべきか
ここが最も相談の多いポイントです。結論としては、電子取引データ保存の最低限対応(フォルダ整理+事務処理規程)は必ず実施し、スキャナ保存や優良な電子帳簿への対応は費用対効果で判断するのが妥当です。
優良な電子帳簿の要件を満たすと、修正申告時の過少申告加算税が軽減される措置がありますが、この要件を満たすには会計ソフトの選定や運用ルールにそれなりのコストがかかります。ペーパーレス化や経理効率化を本気で進めたい会社であれば投資価値がありますが、「法対応さえできればいい」という会社であれば、まずは電子取引データ保存の義務対応にとどめ、様子を見るという判断も十分に合理的です。
まとめ:まず一つだけやるとしたら
今日からできる最も効果的な一手は、過去1ヶ月分の電子取引データ(PDF請求書、クレジットカード明細、ECサイトの領収書など)を洗い出し、専用フォルダに「日付_取引先名_金額」のルールでまとめ直すことです。これだけで電帳法対応の骨格ができ、あとはルールを社内に周知して運用を継続するだけになります。制度の細部は税制改正で変わることがあるため、対応を進める前に顧問税理士に現状の要件を確認しておくことをおすすめします。
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