相続税の生前対策は何から始める?生前贈与・保険・不動産の優先順位
公認会計士・税理士の筧です。
相続税の生前対策で最初にやるべきは「相続税がいくらかかるかを試算すること」です。生前贈与・保険・不動産はすべてその後の手段であって、目的ではありません。順番を間違えると、贈与税を余計に払ったり、相続発生時に思わぬ課税を受けたりします。
よくある質問
Q. 生前対策はいつから始めるべきですか?
早いほど有利とされています。生前贈与は相続開始前一定期間の贈与を相続財産に加算するルールがあり、この加算対象期間が近年段階的に延びる方向にあります(最新の制度内容は要確認)。「まだ元気だから」と先延ばしにするほど、使える対策の選択肢が狭まります。
Q. 年110万円の暦年贈与と、教育資金1,500万円の一括贈与はどちらが得ですか?
一概には言えません。一括贈与はまとまった額を今すぐ非課税で動かせますが、領収書管理や残金課税のリスクがあります。暦年贈与は少額から使い勝手がよい一方、贈与のたびに証拠(契約書・振込記録)を残す必要があります。子の年齢、使う時期、相続対策全体のバランスで決めるべき論点です。
Q. 保険と不動産、節税効果が大きいのはどちらですか?
目的が違います。保険は「納税資金の確保」、不動産は「相続財産の評価圧縮」に向いています。どちらか一方で完結する話ではなく、財産構成に応じて組み合わせるのが実務上の基本です。
なぜ「まだ大丈夫」で対策が手遅れになるのか
毎月の面談で相続の話が出ると、多くの社長がまず口にするのは「自社株の評価額が思ったより高い」という驚きです。現預金や不動産は把握していても、自社株の評価額まで正確に試算している経営者は多くありません。相続税は現金一括納付が原則ですから、株式や不動産中心の財産構成だと、相続人が納税資金を用意できずに慌てるケースが実際にあります。
生前対策の出発点は、この「財産の棚卸し」と「相続税シミュレーション」です。これをやらずに贈与や保険から手をつけると、対策の順番が逆になります。
生前贈与:暦年贈与と教育資金一括贈与の使い分け
生前贈与は最も手をつけやすい対策ですが、制度ごとの落とし穴を理解していないと逆効果になります。
教育資金一括贈与1,500万円の非課税措置
祖父母・父母が30歳未満の子・孫の教育資金として金融機関の専用口座に一括贈与すると、一般的な目安として1人あたり最大1,500万円程度まで非課税になる制度です(最新の適用要件・限度額は要確認)。学校等への費用は1,500万円まで、塾・習い事など学校等以外の費用は500万円が上限とされています。
課税されてしまう主な落とし穴は次の4つです。
- 受贈者が30歳時点(在学中は40歳まで延長可)で口座に残金がある
- 領収書・証拠を金融機関に提出していない(使途不明扱いで課税)
- 贈与者が死亡した時点で口座に残金がある(相続財産に加算)
- 対象外費用(生活費・衣服代・学校等以外の500万円超の費用)に使った
たとえば残金が400万円ある状態で30歳を迎えると、その400万円に対しておおむね53万円程度の贈与税が発生する試算になります(受贈者の年齢や適用される税率区分によって変動するため、あくまで一つの目安です)。「非課税だから安心」ではなく、使い切る計画があって初めて効果が出る制度です。
留学・インター進学を検討している経営者からの相談も多いのですが、外国の学校等への授業料・入学金・学校手配の渡航費や宿舎費は対象になる一方、個人手配の航空券や観光費は対象外とされています。この線引きは判定が難しく、事前に金融機関・税理士へ確認しておくべきポイントです。
使うべきケース・慎重に判断すべきケース
- 効果が大きい:受贈者が0〜10歳で使い切る時間がある/インターや海外留学で学費1,000万円超が見込める/贈与者が60歳以上で相続対策も兼ねたい
- 慎重に判断すべき:受贈者が18歳以上(残金リスクが高い)/贈与者の健康に不安がある/教育費の見通しがまだ立っていない
見通しが不透明なら、無理に一括贈与を使わず、年110万円の暦年贈与を積み重ねる方がリスクは低くなります。ただし相続開始前の贈与を相続財産に加算する期間は近年段階的に延びる方向で改正が進んでおり、将来的にさらに拡大するスケジュールが示されています(具体的な施行時期・年数は最新の国税庁情報で要確認)。暦年贈与も「早く始めるほど加算対象から外れやすい」という前提で計画すべきです。
保険:納税資金を確保する手段
生命保険金には、一般的な目安として「500万円×法定相続人の数」程度の非課税枠があります(現行制度前提。将来の改正可能性あり)。この枠を使うと、相続人が納税資金を確実に手元に持てるという意味で、生前贈与や不動産対策とは役割が異なります。
自社株のように換金しにくい財産を多く持つオーナー社長ほど、保険による納税資金の準備は優先度が高くなります。相続発生後に自社株や不動産を急いで売却すると、買い叩かれたり、事業に支障が出たりするリスクがあるためです。
不動産:評価を下げる効果とその代償
現金を不動産に換えると相続税評価額が下がる、というのは生前対策の定番です。賃貸用不動産は貸家建付地としての評価減や、小規模宅地等の特例による評価額の減額が期待できます(適用要件・限度面積・減額割合は個別の状況により異なるため要確認)。
ただし評価が下がる分、その不動産は流動性が低くなります。相続発生後にすぐ現金化できないため、納税資金は別途確保しておく必要があります。「評価を下げること」と「納税資金を用意すること」は別の課題だと切り分けて考えるべきです。
不動産管理会社を設立して所得や財産を分散させる手法もありますが、これは相続税対策というより事業承継・所得税対策の側面が強く、税理士と個別に設計すべき領域です。
銀行対応・経営判断への翻訳
生前対策は税務の話に見えて、実際は資金繰りと信用力の話に直結します。
- 自社株評価が高いまま相続が発生すると、相続人が納税資金を借入で賄うケースが出てきます。金融機関はこの借入の返済原資(会社からの配当や役員報酬)を見るため、事業承継計画とセットで審査されます。
- 不動産を評価減目的で取得すると、法人・個人どちらの財産が増えるかによって、その後の融資審査の見え方が変わります。個人の相続税対策として不動産を取得したことが、法人の資金調達力にマイナスに働く場合もあります。
- 教育資金や暦年贈与を法人の経費で処理しようとする相談も時々ありますが、個人の教育費・生活費を法人経費化するのは否認リスクが高く、税務調査で指摘されやすい典型パターンです。個人と法人のお金の出どころは必ず分けて設計し、判断に迷う場合は顧問税理士・当法人にご相談ください。
まとめ:まず一つだけやるとしたら
まず「財産目録の作成」と「現時点での相続税シミュレーション」を行ってください。自社株・不動産・現預金・保険をすべて洗い出し、概算の相続税額と、相続人が用意できる納税資金のギャップを数字で見える化することが、生前贈与・保険・不動産すべての対策の出発点になります。個別の制度適用や税額試算は、顧問税理士・当法人にご相談ください。
💡 監修:本記事は国税庁出身の税理士・公認会計士が監修しています。
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*公認会計士・税理士 筧智家至 / 税理士法人グランサーズ*







