資産の無償譲渡・低額譲渡はなぜ危険なのか。譲渡所得税と消費税の実務
公認会計士・税理士の筧です。
資産を「タダで」あるいは「安く」譲渡すると、譲渡所得税・消費税・法人税(寄附金認定)が同時に襲ってくることがあります。ポイントは一つで、税務上は「時価」で取引したものとみなして課税する仕組みが、個人にも法人にもあらかじめ用意されているということです。これを知らずに会社の資産を社長個人が安く買い取ったり、事業承継で資産を無償で後継者に渡したりすると、想定外の税負担と銀行への説明責任が発生します。
よくある質問
Q. 会社所有の車や不動産を、社長個人が時価より安く買い取っても問題ありませんか?
問題になります。時価と譲渡価額の差額は、会社側では「寄附金」または「役員賞与」として扱われるリスクがあり、社長個人側では「経済的利益の供与」として給与課税(所得税・住民税)の対象になり得ます。加えて会社側では法人税法上、時価で譲渡したものとみなして差額に課税される場合があります。
Q. 個人の資産を無償で誰かに譲渡すれば、税金はかかりませんか?
個人から個人への無償譲渡(贈与)は、原則として譲渡所得税の対象にはなりません(受け取った側に贈与税がかかります)。ただし「法人」に対して資産を無償または著しく低い価額(目安として時価のおおむね2分の1未満、最新の要件は要確認)で譲渡した場合は、譲渡した個人に対して時価で譲渡があったものとみなして譲渡所得税が課される規定があります。個人間か、個人から法人かで扱いがまったく変わる点に注意が必要です。
Q. 無償譲渡なら消費税はかからないという理解で合っていますか?
個人が事業に関係なく無償で譲渡する分には消費税は関係しません。しかし「法人」が資産を役員や第三者に無償で譲渡した場合、消費税法上は「みなし譲渡」として時価で課税対象になることがあります。無償だから消費税が発生しない、という思い込みは法人側では通用しないケースがあるということです。
現場でよく起きているパターン
毎月の顧問先面談で資産譲渡の相談を受けるとき、典型的に出てくるのは次の3パターンです。
- 会社所有の社用車・不動産を、退職する役員や社長が「安く」買い取る
- 個人所有の店舗・機械設備を、法人成りのタイミングで会社に「無償で」引き継ぐ
- 事業承継で、先代が後継者(子会社設立法人や個人)に事業用資産を無償・低額で移転する
いずれも「身内だから」「どうせ譲るものだから」という理由で時価を意識せずに実行されがちですが、税務上はここに「時価との差額」という別の取引が隠れています。差額部分に、譲渡所得税・法人税(寄附金)・消費税・贈与税のいずれか、あるいは複数がまとめてかかってくる構造です。
個人が譲渡する場合:譲渡所得税の落とし穴
個人が資産(不動産、株式、営業権など)を譲渡する場合、原則は「実際の譲渡価額」を基準に譲渡所得を計算します。しかし相手が法人で、かつ譲渡価額が時価に比べて著しく低い場合は、時価で譲渡があったものとみなして課税される規定があります。
これは「安く売れば税金も安くなる」という発想を封じるための仕組みです。たとえば時価より著しく低い価額で土地を関係会社に売却した場合、実際に受け取った金額がどれだけ少なくても、税務上は時価で譲渡したものとして譲渡所得を計算しなければならない可能性があります。手元に入ってくる現金は少ないのに、課税されるのは時価ベースという、資金繰り上もっとも危険なパターンです。
一方、個人から個人への無償譲渡(贈与)は、譲渡所得課税ではなく贈与税の対象になります。同じ「タダで渡す」という行為でも、相手が個人か法人かで課税の枠組みがまったく変わる点は、事業承継の相談で必ず確認しています。
法人が譲渡する場合:寄附金認定と役員賞与のダブルパンチ
法人が資産を役員や第三者に無償・低額で譲渡すると、税務上は次の2つが同時に起こり得ます。
- 譲渡した法人側:時価との差額を「寄附金」または対象が役員なら「役員賞与」として認定
- 受け取った側:経済的利益を得たとして、役員なら給与課税、第三者(取引先など)なら受贈益として法人税課税
寄附金は損金算入に上限があるため、差額が大きいほど法人税の負担が重くなる可能性があります。役員賞与として認定された場合はさらに厳しく、事前確定届出のない賞与は原則として損金不算入となる扱いがあり(要確認)、法人税の負担が二重に膨らみかねません。加えて受け取った役員個人にも給与課税(所得税・住民税・場合によっては社会保険料)が発生し、源泉徴収漏れがあれば不納付加算税の対象にもなり得ます。
消費税:「無償だから非課税」は法人には通用しない
消費税は「事業として対価を得て行う資産の譲渡」に課税される、という建前があります。そのため個人が私的に無償で物を譲っても消費税は関係しません。
しかし法人が事業用資産を役員や従業員、あるいは関係会社に無償で譲渡した場合は、消費税法上「みなし譲渡」として時価で課税対象になる規定があります。これは法人の資産は本来事業のために使われるべきもので、それを無償で外部(役員個人も法人から見れば別人格)に流出させる行為は、時価で売却したのと同じ経済効果があると見るためです。
実務でありがちなのは、退職する役員に社用車を「お疲れ様でした」と無償で譲渡するケースです。会社側では消費税のみなし譲渡課税、法人税の寄附金・役員賞与認定、受け取った役員側の給与課税まで、税目をまたいで一気に発生する典型パターンです。
資金繰り・銀行対応への翻訳
資産譲渡の税務は「税金が増える」だけの話では終わりません。
- 資金繰り:時価課税されると、実際の入金額よりも大きな所得・利益に対して納税資金を用意する必要があります。低額譲渡ほど「入ってくる現金」と「課税される金額」の乖離が大きくなり、納税資金不足に陥りやすくなります。
- 銀行対応:関係者間で資産を簿価と大きくかけ離れた価額で動かすと、決算書上の資産構成や利益水準が説明しづらくなります。融資審査の場面で「なぜこの価額で譲渡したのか」を金融機関に問われたとき、時価の根拠(不動産鑑定、査定書、取引事例など)を示せないと、経営の透明性そのものを疑われかねません。
- 経営判断:事業承継や役員退職のタイミングで資産を動かす予定がある場合は、実行前に時価の根拠を用意し、譲渡価額との差額がどの税目でどう課税され得るかを事前にシミュレーションしておく必要があります。実行後に修正するのは困難です。
まとめ:まず一つだけやるとしたら
会社・個人間、あるいは関係者間で資産を動かす予定があるなら、実行前に「時価はいくらか」を第三者の資料(不動産なら査定書・固定資産税評価額、車両なら中古車査定など)で確認してください。時価より低い価額で譲渡する予定があるなら、差額にどの税金がどうかかるかを、実行前に税理士に確認することが有効なリスク対策になります。なお、みなし譲渡課税や寄附金の損金算入限度額などの具体的な数値・要件は税制改正の影響を受けるため、実行前に必ず最新の税制で顧問税理士・当法人にご確認ください。
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